カッパの女房

縁あってASDのカッパさんの嫁になりました。
カッパさんの飼い主・・・いや嫁として日々修行中です。

利きコーヒー

2019-01-30 10:13:24 | 日常のあれこれ


「スーパー行くけど欲しいもん、ある?」と私が聞くと、

珍しくカッパさんがチラシを差し出して、

「これが欲しい」と言った。

太マジックで丸がついているのは、

カルビーのスナック3種と、

ネスカフェゴールドブレンドの1杯分が個包装になったものだ。

「ネスカフェは家にあるよね?」と念を押すと、

「1杯ずつ新鮮はものが飲みたいねん」とのたまう。

私はいい奥さんなので、望み通り買ってきてやった。


「やっぱり違う!!」と

ゴールドブレンドの個包装のコーヒーを飲みながら

カッパさんは悦に浸っている。

実は私も一緒に飲んでいるのだが、瓶のものとの違いがわからない。

私がそう言うと、

「何言うてんねん。ぜんぜん違うわ」とカッパさんが叫んだ。

「空気に触れてないからぜんぜん違う」とわめく。

“ぜんぜん違う”と壊れた蓄音機のように何度もカッパが繰り返す。

「じゃあさ、飲み比べたら分る?」と私が聞くと、

一瞬の間をおいてカッパさんが

「おう!」と答えた。

「じゃあさ、明日のお昼、2つ飲み比べてな」と私が言うと

「望むところだ!」カッパさんは胸を張った。

利き酒ならぬ利きコーヒーだ!

「で、もし間違ってたらどうするの?」

「どうもせーへん・・・」

「土下座してもらおうかな・・・」

「・・・」

カッパさん、以前私との賭けで負けたら土下座すると、

自信満々に言い放っていたのだ。

あっさり賭けに負けたくせに、なかったことにしようとしている。

そうはさせまい!

私は見たい、カッパの土下座を!

振りかぶって風を起こすような土下座を!!

地面に打ち付けパックリと額を割ってしまうほどの土下座を!!

「僕が勝ったらどうするの?」

「私が悪かったで謝るし」

「土下座や」とカッパさんは目を輝かした。

よし、受けて立つとも!!


さて、翌日のお昼、私が

「じゃあ私がコーヒー用意するね」と言うと

「ほ、ほんまにすんの?」とカッパさんがおびえた様子を見せた。

「もちろん!」

ぜひともカッパさんの土下座がみたいものだ。

風を起こすような土下座を!!

パックリと額を割ってしまうほどの土下座を!!

カッパさんの決死の土下座を私は見たいのだ!!

こうして、小者夫婦の壮絶なギャンブルの幕が切られた。


とは言え、まぐれで当たる可能性もある。

そうなったらどうしよう。

などと考えながら、

瓶入りのコーヒーと個包装のゴーヒーの2つのカップを用意した。



カッパさんは慎重に匂いを嗅いでいる。

少し飲み、舌で細かく味わっている。

そんな作業を何度か繰り返した後、

「なんとなくこっちやと思う」と自信なさげに言った。

当たってる!!!

「ふーん・・・」とだけ私は答えた。

するとカッパさんはまた飲み比べて

「いや、やっぱりこっちかな?」と迷いだした。

「全然違うって言うたやん」って私が突っ込むと、

「昨日はそう思ったんや」と半泣きだ。

迷っているのは間違いないが、

2分の1の確率で私は土下座しなければならない。

それも、まぐれで当たっただけのために!

これは屈辱だ!

私は自分が土下座したくないために、譲歩した。

「今、ギブアップしたら土下座しなくていいよ」と言ってやった。

するとカッパさんはパアァと顔を輝かして、

「ほんまに?」と言った。

私は聖母のように鷹揚にうなずいてやった。

カッパさんは眩しそうに私を見て「じゃあ、ギブアップする」と言った。

小者め・・・。

こうして、夫婦の土下座を賭けた利きコーヒーは不発に終わった。

つまらん夫婦のつまらん戦いだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする