笛吹川上流西沢渓谷は紅葉シーズンもすっかり終わって訪れる人もまばらで、駐車場には数台の車があるのみだった。最近何故かお世話になっている「BSTBS日本の名峰シリーズ」ロケハンのため、甲武信岳へ登った。メンバーはいつもの川原ディレクター、村川AD、それと新人ADの三角(ミスミ)君と僕だ。
三角君は愛媛出身で芝居をやるために二年間韓国暮らしをしていたと言う異色の経歴の持ち主。徳ちゃん新道を上山しつつ、歩きながらの会話は新人歓迎会のようなものになった。あだ名はいきなりサンカクとなり、何故韓国に行ったのかとか(女か?)とか、彼女は出来たんか?(また女)とか、韓国料理は美味いがあの鉄の箸は頂けないとか、竹島問題とか、済州島虐殺事件とかいろんな話をした。見た目も韓国っぽいサンカクADが韓国寄りの発言をすると、川原Dがすかさずいじる。それは、日本人だけの日韓友好討論会みたいなものだったが、隣同士の国なのに我々は意外と朝鮮半島の事を知らないのだとも感じて、サクッと韓国にでも行ってみたくなった。久しぶりに何処か行ってこようかなあ、などと思う。
徳ちゃん新道も最初は日だまりの道だったが、高度を上げていくと気温がどんどん低下してくるのを感じる。立山に大雪を降らせた寒気がまだ居座っているためか、道には霜柱が目立つ。今朝中央道を走りながら見た甲斐駒ヶ岳は、大分下の方まで真っ白になっていたから寒いはずだ。だが、川原Dも村川ADも、新人のサンカクADも歩きは快調で、これからのこの名峰シリーズのグレードアップが実に楽しみになる。なんせ、川原Dは最初の笠ヶ岳ロケハンの時はバテバテで、最後はたまたま居合わせたたパトカーに乗せてもらうと言う伝説を作った男だ。そんな男が急成長し、来年は劔岳を撮ると言う。実に頼もしい。
「いいもんだろ?日本・・・・・・もっと見せてもらおうじゃないか」
この日甲武信小屋に友人の北爪支配人は不在だった。西沢渓谷を出発前に北爪君に電話をしたら、
「あれ?赤沼さん来るんだった?」
「そうだよ、これから登って来なよ」
「イヤです~~~~~~。」
と言う事であった。まあ、そりゃそうだわな。
彼と知り合ったのはそんなに古いことではないのだが、ギターが縁で仲良くなって、甲武信小屋に行けば一緒にギターを弾き、今年の三月には東京四谷と石巻でライブをやったりもした。僕はガイドとして山を歩きはするものの、里には必ず降りるから、そんな時にライブを企画したり、招いてもらったりして、ここの所コンスタントに演奏活動をしている。北爪君は山に籠もりっぱなしだから、それはなかなか叶わず、僕のブログなんかを見て悶々としている様な気配が感じられるので、時々会ってドヤ顔をするのが僕の楽しみなのだが今回は不在とは、ああつまんないなあ。(笑)
甲武信岳小屋ではオーナーの徳さんが迎えてくれた。薪ストーブの上の巨大な南部鉄瓶から、白い湯気が景気よく立ち上っている。小屋の中は雑然とし、しかしいつもと変わらぬこの小屋の雰囲気は僕をほっとさせる。最新のカチッとした山小屋は快適ではあるが、何処でもかしこでもくつろいで良いとは行かないらしく、どこか登山者が背筋を伸ばして事に当たらないといけないような雰囲気を醸し出したりしてる。僕はそんな雰囲気が少し苦手なのだ。対して甲武信小屋みたいなところは、こんな風に人もまばらな時期になると、みんなでキャンプしてる様な雰囲気があって、お酒を回したり、つまみを回したり、ストーブを囲んで楽しい一時がある。この日も川原D一押しの高級缶詰(一缶400円也)や、徳さんが出してくれた銚子沖鰯の缶詰が薪ストーブ上でフツフツと煮えて、芋焼酎がグビグビ進んだ。こんなこと最新の山小屋でやってたら、「臭うからやめて下さい!」なんて言われますから。
夕食はいつもの継ぎ足しカレーを頂いて、徳さんの話を聞く。自分がこの小屋を経営するに至った経緯や、徳ちゃん新道の苦労話。この山域のいろんな歴史など、興味深い話は尽きなかった。今回の「名峰シリーズ 甲武信岳」は徳さんがメインみたいなものかも知れない。山に暮らす男のドラマだ・・・・・・・きっと。あとは内緒、請うご期待。
さあ、アンドロメダはどれでしょう?
酔っぱらってるとは言え僕らロケハン隊はちゃんと仕事をする。徳さんとの話はインタビューだし、消灯前には極寒の外に出て星空やら、夜景やらのチェックをしに行く。本番では可能な限り様々な撮影をするので、それをロケハンで見つけておくのだ。朝日はここ、夕日はここ、夜景はこことね。
僕のカメラを何となく天空に向けて撮影したのだが、なんとそこにはアンドロメダ座大星雲(M31)が映り込んでいた。全く期待していなかったので、僕は興奮してしまって何枚もシャッターを切った。239万光年の彼方にある、銀河がこうして簡単にカメラに映るのだから、デジカメって凄いなと思う。感度をいっぱいに上げて、わずか15秒ほどの露出で映るんだから(もちろん三脚は使います)。フォトチャンネルで大きくしてご覧下さい。
拡大したアンドロメダ大星雲
関東平野から登る月 でかくて感動的だった
早朝、昨日のうちにリサーチしておいた朝日ポイントに出かけた。関東平野の向こう、おそらく房総半島の山端が次第に白んで色づき始めた。漆黒の闇から浮かび上がる見事なグラデーションがやがて富士山を照らし始めた。なんて美しい山なのだろう。他にも見るべきものは沢山あるというのに、富士山はその一点に僕らの目を向けさせる。あくまでも静かに。もの言わずとも、主役はあたしでしょ?と語っているかの様だ。この日の空は実にクリアーで、色づきは今ひとつだったのかも知れないが素晴らしい夜明けであった。めちゃ寒かったけど。
葉を丸めて冬に備えるシャクナゲ
下山は戸渡尾根から近丸新道を選んだ。この道はかつて鉱山があってトロッコが走り、硅石(ガラスの材料)を産出していたのだという。辺り一面に白い硅石が散らばって、とても不思議な感覚を覚える。道はその軌道跡を辿るのだが、所々レールが置き去りにされて居て、往時の様子を忍ばせてくれる。僕はこんな暮らしの痕跡とか、廃屋とか、畑の隅に放置され朽ち果てた古い車とか、そんなものが昔から好きだ。ちょっとしたタイムスリップが味わえるから。
ここはかつてトロッコが走っていたなんて、俄に想像しがたいぐらい山の中なのだが、人は様々なものを求めて山の中を彷徨い開発をした。時には命を賭けて。パソコンをパチパチっと操作すれば、海外から安く色んな物が手に入る時代とは随分違っていたのだ。全てがオートメーションなこの時代。自分の足で歩いたり、手を動かしたり、考えたりして何かを作り出したりすることが当たり前だったはずなのだが、日本人はお金を出して、便利さを享受することに慣れすぎてしまった。現代の日本人には本来の日本人には似合わない暮らしをしているのではないかと僕は思っている。日本はもう少し貧乏でも良いと思うのだ。その方が僕らの暮らしはきっとエキサイティングになる。
下るにつれ体は温まり日だまりの中を下山した。全員スタスタと快調だった。いつもの隼温泉にて入浴、解散。
本編放映をこうご期待!!!
追って日時ご連絡申し上げます。
BSTBSロケハン甲武信岳