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イエメンを巡る代理戦争~「中東紛争を欲す」のは誰か

2015年09月26日 17時56分51秒 | 外交問題
現在も混乱が続くイエメン情勢であるが、その遠因が米国の仕業であったということは以前にも書いた。

10年1月>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/de846af652d19a46c5d98041c79f5095


その約2年後には、国内の混乱収拾の為、サレハ大統領が追われることになった。


■サレハ大統領、GCC調停案に同意し退陣
11年11月>http://www.asahi.com/special/meastdemo/TKY201111230580.html


後任に座ったのはハディ副大統領で、この交代劇を主導したのはサウジ(形式的にはGCC諸国)だった。
これはまるで、かつての「三国干渉」の如く、外国の圧力によりサレハが排除されたということである。だが、混乱は一層酷くなり、政府軍、フーシ派、アルカイダの三つ巴戦となっている。幕府軍、薩摩、長州のような戦乱と似ている。


「イスラム国」騒動で戦乱を狙った米軍は行き詰まり、今後に米軍が戦争を主導するのは目立ち過ぎることと戦費がかさむということで、イエメン紛争は代理諸国へと役割が移された。


■米軍撤退
3月22日>http://www.cnn.co.jp/world/35062103.html


■ハディ暫定政権支持の議長声明
3月23日>http://www.news24.jp/articles/2015/03/23/10271532.html

混乱が拡大する中東・イエメンについて、国連の安全保障理事会は22日、緊急会合を開き、政権の掌握を宣言したイスラム教シーア派系の反体制派を非難する議長声明を全会一致で採択した。
 イエメンでは先月、シーア派系の反体制派武装勢力が首都・サヌアを掌握したが、ハディ大統領が南部の都市・アデンに逃れて徹底的に抵抗する意向を表明するなど混乱が拡大し、内戦に陥る懸念が指摘されている。AP通信によると、反体制派は22日、南部の都市・タイズを制圧し、抵抗する住民たちと衝突、1人が死亡した。
 混乱の拡大を受け、国連安保理は22日緊急の会合を開き、ハディ大統領の正当性を支持するとした上で、全ての当事者が解決に向けて話しあうよう促す議長声明を全会一致で採択した。


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議長声明のすぐ後、サウジアラビアが中心となって、10カ国有志連合が発表されるに至ったわけである。

■サウジアラビアの声明
3月25日>http://www.saudiembassy.net/press-releases/press03251501.aspx
(これについては後述する)



拳を振り上げたものの、若干の問題が残ったままになった。安保理決議は採択されなかった。

■安保理継続協議
4月4日>http://www.asahi.com/articles/ASH453FRXH45UHBI00F.html


また、10カ国有志連合軍のうち、パキスタン軍は派兵を国会が承認せず、空爆も参加する見込みはないだろう。サウジアラビアの国土防衛には協力するが、イエメン国内への攻撃は辞退する、ということだった。

■パキスタン軍、派兵拒否
4月11日>http://mainichi.jp/shimen/news/20150411ddm007030102000c.html



イエメンへの有志国連合軍の攻撃は、シリア情勢と似たものとなっている。今年2月の拙ブログ記事に書いたものを実行したかのようですね。

2月13日>http://blog.goo.ne.jp/critic11110/e/9bd2212390f5f52161566e6f0483925d

(再掲)
革命軍B(イスラム国)が報道で言うようにテロであり犯罪者集団ならば、正統政府軍がこれを掃討すべきであり、政府軍が外国軍に鎮圧の加勢を頼む=条約や協定締結なら、その行為は治安維持(叛乱や暴動鎮圧)であって戦争ではないし、集団的自衛権行使の対象とはなり得ない(=安倍政権の政府答弁はおかしい)。



イエメンの場合だと、

・ハディ大統領暫定政権を正統政府とみなす
・反政府のフーシ派勢力とアルカイダ&ISILの掃討が必要
・外国軍に加勢を頼む

ということで、外国軍に該当するのが10カ国有志連合軍となる。


前記のサウジ声明文を一部引用する。

In a letter, dated March 24, 2015, President Hadi requested, based on the principle of self-defense, enshrined in Article 51 of the U.N. Charter, as well as in the Arab League charter’s collective defense mechanism, a request for immediate support – by all means necessary – including military intervention to protect Yemen and its people from the continued Houthi aggression and to support it in fighting al Qaeda and ISIL.”

“Based on the appeal from President Hadi, and based on the Kingdom’s responsibility to Yemen and its people, the Kingdom of Saudi Arabia, along with its allies within the GCC and outside the GCC, launched military operations in support of the people of Yemen and their legitimate government.”



これによると、ハディ政権と国家としてのイエメンによる支援要請の存在は確認できるだろう。また、51条の個別的自衛権とアラブ連盟の集団的防衛メカニズムに言及されており、10カ国が集団的自衛権によるイエメンでの軍事行動ではないと認識しているだろう。


同盟国の列挙が、GCC諸国と非GCC国となっているが、これについてもやや疑問点があるものと思う。以下にそれらを。


①国連憲章8章は適用されていない

イエメンの個別的自衛権行使は問題ない。暫定政府の正統性が問題にはなるが、形式的にはギリギリ安保理議長声明でどうにか保たれているのかもしれない(国際司法の判断は分かりません)。
けれども、52条の地域的取極と53条1項の強制行動は、認定されていない。

アラブ連盟による軍事行動が正当化されるとして、21カ国の合意(例えば軍事委員会での正式決定)があるのかどうか。
アラブ連盟域外国のパキスタンが入っているのはおかしい、ということになる(後日離脱しているので、現在は9カ国なのかもしれない)。GCC国と言いながら、6カ国全部ではなく、オマーンは離脱している。これについても、GCC内での合意決定があるのかどうか。更には、安保理での許可が得られていない強制行動はとることができない。

ボスニア紛争やコソボ紛争時のNATO軍のような「風味」を醸し出したかったのかもしれないが、安保理での決議が得られていない以上、合法の強制行動ではない。


②自衛権だけで有志国の軍事行動は認められるのか?

国連憲章8章の適用外であると、例えばアラブ連盟の相互防衛協定の根拠だけでイエメン内戦に軍事介入できるのであろうか?
それとも、有志国の集団的自衛権行使が正当化できるのか?

もしも集団的自衛権を根拠とするなら、声明文には最初からそのように発表するだろう。けれども、恐らくはその主張は困難であるとの認識の下、地域的機関(アラブ連盟)を挙げてきたものと思われる。8章での行動を予定していたものの、安保理協議が中に浮いてしまい、合法性の担保はないまま軍事作戦に踏み切ったものと思われる。外見的には、内政干渉というか、内戦への軍事介入と呼ぶものでしかないだろう。

因みに、オマーンを除くGCC5カ国以外の国は、エジプト、ヨルダン、モロッコ、スーダン、パキスタンであった。


これまでは米軍がやってたのを、サウジ他が肩代わりしましたよ、という体裁であろう。代理戦争であろうとも、弾薬や爆弾やミサイルなどは消耗し在庫が減るということなのだから。
願わくば、シリア領内で地上戦を派手にやりたい、ということだったのでしょう。それが予定変更(規模縮小)となったわけだな。テロとの戦いと称して、以前よりも増して酷くなってしまったということである。