第13回「女性作家を読む」研究会・報告
日時: 2010年11月3日(水)13時30分 -17時
場所: 奈良女子大学(文学系S棟)S124講義室
研究会:総合司会 吉川佳英子
発表:
13時30分-14時20分
「Isabelle de Charrie're, Sir Walter Finch et son fils William」を読む
�岡尚子
高岡尚子氏は、まず、貴族の家柄に不釣り合いな異身分結婚をし、蘭、仏、独、英など複数言語を話す作家であったシャリエールの生涯を紹介された後に、"Sir Walter Finch et son fils William" という特異な小説について詳細な分析と解説をされた。ディドロの作品にみられるように、書簡形式や対話形式は18世紀文学の特徴ではあるが、とはいえ、この作品内の誰が話しているのかわからないといったテクストの不明確性あるいは難解性は著者独自の自由な形式に則った創作手法であること、『エミール』をパロディ化したこの作品にはルソーの影響が認められること、理想主義に拘泥することなく現実を見据える作家の明快な視点、また、この作品の独創性は、女性が陥っている実存的な虚無意識を描くことによりジェンダーの問題を直接的に告発するのではなく間接的に提示している点にあること、これらの論点について、高岡氏は判り易い言葉で論証された。難解至極な小説を時間をかけて何度も読み込まれ、作品をじっくりと紐とき、聴衆のためにすっきりした形に纏め上げられた発表であった。質疑応答では、シャリエールには『三人の女』『ヘンリー嬢』などのような作品があるのに、なぜガリマールの2ユーロシリーズは難解なこの作品を選択し出版したのかという疑問点を中心に、活発な議論が交わされた。さらに、シャリエールの作品を読んでみたいという気持ちになったという多くの意見が表明された。
14時30分-15時20分
「19世紀前半の女性-レ・ミゼラブルの少女コゼットより-」 松田祐子
松田祐子氏は、本発表を通し、これまでのバルジャンとジャベール警視の追跡劇やこの二人の登場人物の人間性を中心に扱う伝統的な読みではなく、少女コゼットの描写を通し著者ユゴーの女性観に迫る、ジェンダーの視点に立った新たな読みを提示された。ユゴーの女性観は「女性は弱く保護されなければならない存在である」とするもので、ナポレオン法典が提唱した当時の男性の一般的なジェンダー規範を代弁している。松田氏は、ユゴーの描くコゼットの未来は、当時の「理想の女性」の姿であるとし、ユゴーは女性に温かいまなざしを向けてはいるが、女性が主体的な意思をもって行動する存在とは見なしていなかった点を強調された。コゼットのジェンダー分析の合間に挟まれる19世紀の子供や乳母、女性の現状に関する統計資料は、論証に説得力を持たせる上で、極めて効果的な形で提示された。近刊書『アニメを読み解く世界史』の『レ・ミゼラブル』の章を担当される発表者による今回の発表は、一貫してジェンダー批評に重きが置かれており、とりわけ、アニメとオリジナル本、双方のあらすじに見られる相違点の指摘、あるいは、日本の現代批評家の規範的なグリゼット論に対する批判的論評が聴衆の強い関心を掻き立てる発表であった。質疑応答では、近刊書はいつ出版される予定かといった質問、また『レ・ミゼラブル』のDVDやオペラに関し多くの質問がよせられた。
15時30分-16時20分
「Martine Reid, Des femmes en litt�rature (Belin, 2010)」 坂本千代
坂本千代氏は、ガリマール社から毎年出版している「女性文学・2ユーロシリーズ」の編纂者であるM. リッドの経歴を説明された後、彼女の最新書『文学における女性たち』について、その構成に従い二部十二章の各章を丹念に要約された。本書の前半では18世紀の女性作家ピプレ、スタール夫人、ジャンリス夫人を紹介、次いでランソンの文学史やサント・ブ―ヴ、スーリエやドーミエが当時の女性たちや女性作家をどのように捉え描写していたかを詳説、第二部の冒頭では女性作家の筆名の問題について、次いで18世紀のヴィルヌーヴ、シャリエール、さらに19世紀のデュラス(クレール・ド・)とサンド、最後に20世紀作家のヴィヴィアンを取り上げている。"Des femmes en litt�rature" は著者がフェミニストの視点から著した本であることを坂本氏は強調された。質疑応答では、20世紀の作家をもっと取り上げてもらいたかった、本書が著者の単独でおこなった膨大な仕事である点は評価されるが、ジャンリス夫人やサンドの作品について断定的にすぎる論点が見受けられるのではないかといった質問をめぐり、活発な議論が交わされた。
打ち合せ会:16時30分-17時
打ち合わせ会では、奈良女子大生が作ったという美味しいシフォンケーキ(奈良漬入り!)とマリアージュの暖かい紅茶に癒されながら、おもに研究発表の内容や今後の研究会の開催予定について議論された。関西では、毎年この時期に研究会を開催するという点で、参加者の意見の一致がみられた。次回は、関東で三月初旬あるいは後半の予定。
(文責:西尾治子)
日時: 2010年11月3日(水)13時30分 -17時
場所: 奈良女子大学(文学系S棟)S124講義室
研究会:総合司会 吉川佳英子
発表:
13時30分-14時20分
「Isabelle de Charrie're, Sir Walter Finch et son fils William」を読む
�岡尚子
高岡尚子氏は、まず、貴族の家柄に不釣り合いな異身分結婚をし、蘭、仏、独、英など複数言語を話す作家であったシャリエールの生涯を紹介された後に、"Sir Walter Finch et son fils William" という特異な小説について詳細な分析と解説をされた。ディドロの作品にみられるように、書簡形式や対話形式は18世紀文学の特徴ではあるが、とはいえ、この作品内の誰が話しているのかわからないといったテクストの不明確性あるいは難解性は著者独自の自由な形式に則った創作手法であること、『エミール』をパロディ化したこの作品にはルソーの影響が認められること、理想主義に拘泥することなく現実を見据える作家の明快な視点、また、この作品の独創性は、女性が陥っている実存的な虚無意識を描くことによりジェンダーの問題を直接的に告発するのではなく間接的に提示している点にあること、これらの論点について、高岡氏は判り易い言葉で論証された。難解至極な小説を時間をかけて何度も読み込まれ、作品をじっくりと紐とき、聴衆のためにすっきりした形に纏め上げられた発表であった。質疑応答では、シャリエールには『三人の女』『ヘンリー嬢』などのような作品があるのに、なぜガリマールの2ユーロシリーズは難解なこの作品を選択し出版したのかという疑問点を中心に、活発な議論が交わされた。さらに、シャリエールの作品を読んでみたいという気持ちになったという多くの意見が表明された。
14時30分-15時20分
「19世紀前半の女性-レ・ミゼラブルの少女コゼットより-」 松田祐子
松田祐子氏は、本発表を通し、これまでのバルジャンとジャベール警視の追跡劇やこの二人の登場人物の人間性を中心に扱う伝統的な読みではなく、少女コゼットの描写を通し著者ユゴーの女性観に迫る、ジェンダーの視点に立った新たな読みを提示された。ユゴーの女性観は「女性は弱く保護されなければならない存在である」とするもので、ナポレオン法典が提唱した当時の男性の一般的なジェンダー規範を代弁している。松田氏は、ユゴーの描くコゼットの未来は、当時の「理想の女性」の姿であるとし、ユゴーは女性に温かいまなざしを向けてはいるが、女性が主体的な意思をもって行動する存在とは見なしていなかった点を強調された。コゼットのジェンダー分析の合間に挟まれる19世紀の子供や乳母、女性の現状に関する統計資料は、論証に説得力を持たせる上で、極めて効果的な形で提示された。近刊書『アニメを読み解く世界史』の『レ・ミゼラブル』の章を担当される発表者による今回の発表は、一貫してジェンダー批評に重きが置かれており、とりわけ、アニメとオリジナル本、双方のあらすじに見られる相違点の指摘、あるいは、日本の現代批評家の規範的なグリゼット論に対する批判的論評が聴衆の強い関心を掻き立てる発表であった。質疑応答では、近刊書はいつ出版される予定かといった質問、また『レ・ミゼラブル』のDVDやオペラに関し多くの質問がよせられた。
15時30分-16時20分
「Martine Reid, Des femmes en litt�rature (Belin, 2010)」 坂本千代
坂本千代氏は、ガリマール社から毎年出版している「女性文学・2ユーロシリーズ」の編纂者であるM. リッドの経歴を説明された後、彼女の最新書『文学における女性たち』について、その構成に従い二部十二章の各章を丹念に要約された。本書の前半では18世紀の女性作家ピプレ、スタール夫人、ジャンリス夫人を紹介、次いでランソンの文学史やサント・ブ―ヴ、スーリエやドーミエが当時の女性たちや女性作家をどのように捉え描写していたかを詳説、第二部の冒頭では女性作家の筆名の問題について、次いで18世紀のヴィルヌーヴ、シャリエール、さらに19世紀のデュラス(クレール・ド・)とサンド、最後に20世紀作家のヴィヴィアンを取り上げている。"Des femmes en litt�rature" は著者がフェミニストの視点から著した本であることを坂本氏は強調された。質疑応答では、20世紀の作家をもっと取り上げてもらいたかった、本書が著者の単独でおこなった膨大な仕事である点は評価されるが、ジャンリス夫人やサンドの作品について断定的にすぎる論点が見受けられるのではないかといった質問をめぐり、活発な議論が交わされた。
打ち合せ会:16時30分-17時
打ち合わせ会では、奈良女子大生が作ったという美味しいシフォンケーキ(奈良漬入り!)とマリアージュの暖かい紅茶に癒されながら、おもに研究発表の内容や今後の研究会の開催予定について議論された。関西では、毎年この時期に研究会を開催するという点で、参加者の意見の一致がみられた。次回は、関東で三月初旬あるいは後半の予定。
(文責:西尾治子)