“子ども”を取り巻く諸問題

育児・親子・家族・発達障害・・・気になる情報を書き留めました(本棚4)。

「子どもの『心の病』を知る」(岡田尊司著)

2012年06月17日 06時58分19秒 | 心の病
著者は精神科医です。その方面の著書が多数ある一方で、小説家という側面もある多彩な方。

新書にしては342ページとボリュームがあります。
心の問題を乳児期から成長段階別に概観する内容ですが、文章が上手なので硬い内容ながらもストレス無く読み進められました。
例を挙げての解説もあり理解を助けてくれます。手軽に病気のイメージをつかむには格好の入門書だと思います。
「うつ病」は治療で落ち着くけど再発しやすい病気、「統合失調症」は再発を繰り返すと人格が崩壊していく慢性・進行性の病気、等々。

ただ、個々の疾患について詳しく知りたい方には物足りないかもしれません。一方、ふだんよく相談を受ける「夜泣き」などは簡単すぎる記述です(毎日寝不足のお母さんには深刻な問題なのですけど)。

一つ気になったのは、例示する患者さんの外見の記述が文学的なっているところ。まあ、小説家という側面が顔を出してしまうのでしょう(苦笑)。例えば・・・

「丸顔に、愛くるしい目鼻立ちの少女は、打ちしおれた様子で診察用の丸椅子に座っていた。深く自分の行いを反省し、悔恨しきりといった様子だった。リラックスさせるように話しかけると、少女は緊張気味に、おちょぼ口のふっくらと下唇を僅かに震わせながら、少しずつ今日の日に至る経緯をぽつりぽつりと語り始めた。」(P275「祭りの後」)

「19歳のR子は、フランス人形のように色白で、整った顔立ちをした、美しい少女だった。19歳という年より幼く見える顔つきは、見るからに繊細だが、いくぶん表情に欠け、冷たい印象もある。」(P294「時間の止まった少女」)


そして、この本の白眉は「あとがき」です。

躓きこそが成長を生む
 人生には本当に多くの困難がひそんでいる。大人になって自立していく過程においても、子どもを育てる中でも、悩みは尽きないものである。小さな困難から大きな困難まで、さまざまであるが、どんな困難でも、出会った本人には、とても深刻なものに感じられる。出口が見つからずに、どうなるのだろうかと途方に暮れることもある。それに打ち負かされそうになってしまうこともある。
 そんなときは、一旦立ち止まって休むことも大切だ。動き続けているときには見えなかったことも、立ち止まって初めて見えることもある。進むことばかりが人生ではないのだ。思い切って何もかも忘れ、のんびしとした時間を過ごしてみることだ。どうしてもしなければならないと思っている心の縛りを、一旦解いてやろう。
 そうするだけで、落とし穴に落ちたような心の状態は、楽になっていく。すり切れ、疲れ果てていた気分が、余裕を取り戻していく。元来持っている治癒する力が働き始める。取り憑かれたようにとらわれていた自分の姿に気づけるようになる。人生は決して一つの尺度だけで測られるものではない。もっと自由に生きていいのだ。
 そして、時が来たら、再び勇気を持って進んでほしい。ずっと立ち止まってばかりでは、心の筋力が衰えてしまう。現実に向かい合って欲しい。失敗や挫折を恐れずに、チャレンジして欲しい。失敗しても、失うものなど何もない。だが、試みなければ、チャンスは失われてしまう。一度失敗したことが厭であれば、他の何かを試みてもいい。可能性は一つではないのだから。
 試行錯誤を続ける中で、きっとあなたは新しい発見に出会うだろう。自分というものの弱い部分や限界に気づくかもしれないが、思いがけない可能性や長所を見つけ出すこともある。
 あなたが直面し、あなたを悩ませている問題は、決してデメリットだけをもたらすものではない。今が苦しくても、それにキチンと向かい合い、対処していくことが、きっと次なる大きな成長を生む。あなたに降りかかっている問題は、飛躍のための試練なのである。問題があるからこそ、人は同じ自分に甘んじず、成長していける。見守る親や周囲の人も、試練を乗り越えることで強く育っていけるのだ。
 絶望を味わうような病気や挫折でさえ、けっしてマイナス面ばかりではない。病気や挫折を経験したがゆえに、得られるものも大きいのである。一時的に、落胆と哀しみも大きくて当然だが、人は驚く程大きな回復力と順応力を持っている。ましてや、子どもや若者の潜在力は計り知れない。失われたものに囚われ続けるよりも、新しい世界に目を向けることが、希望を取り戻す近道なのである。


名文であり、感動しました。


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