学校健診で「肥満があるので医療機関を受診してください」と通知を出しても、実際に受診する生徒は少数派です。
時間をやりくりして学校健診に出かける小児科医の立場として、残念でなりません。
以前、教育委員会にも「受診率を上げる努力をしてください」と意見しましたが、のらりくらりと建前を述べられて終わりました。
なぜ受診しないのでしょう?
理由は簡単です。
1.症状がないから
2.困っていないから
等々。
一方、医療者が「肥満は健康上の問題がある」とする理由は何でしょう?
こちらも理由は簡単です。
ア)生活習慣病のリスクがあるから
イ)身体・精神健康上の問題があるから
等々。
問題は生徒と医師の頭の中のギャップです;
「現在困っていないし、何十年も先のリスクがあると言われてもピンときません」
しかしここであきらめるわけには生きません。
この項目ではアの生活習慣病のリスクを具体的なデータで示し、理解することにより、生徒自身が肥満対策に取り組める方法を探ってみたいと思います。
<ポイント>
・幼児期以降の肥満は成人肥満につながる確率が高い。
・小児期に肥満である場合、成人期に心筋梗塞を含む心血管疾患を発症するリスクが2倍以上になる。
上の2点に尽きます。つまり、
「学校健診の場で肥満と評価されたら病気の予備軍であることを意識し、将来の心筋梗塞・脳卒中のリスクが2倍になると考え、その日からリスクを減らすために取り組む必要がある」
ということ。
現在困っていなくても、すでに病気の種を抱えている肥満の生徒に、
将来を想像する能力があれば行動は変わる可能性があります。
以下に調べた内容を備忘録として残しておきます。
肥満について調べる際にいつも感じることですが、
まず小児と成人では評価方法が違うこと、用語の混乱、病気のリスク評価がバラバラで、
単純化することが難しいですね。
それを築いつ拾っているとわかりにくい説明になりがちです。
▶ 用語解説
・肥満:身長に比べ体重が大きい状態を指す。病気を意味するものではない。体格指数 (BMI = 体重[㎏]/身長[m]2) が18.5以上25未満であれば普通体重。18.5未満なら低体重、25以上なら肥満に分類される。
・肥満症:肥満(BMI ≥25)であって、肥満による11種の健康障害(合併症:耐糖能障害[2型糖尿病など]、脂質異常症、高血圧、高尿酸血症・痛風など)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に診断される。減量による医学的治療の対象となる。
・メタボリックシンドローム:別名「内臓脂肪症候群」。「肥満」か否かによらず、内臓脂肪の蓄積および血圧、血糖値、血清脂質値のうち2つ以上が基準値から外れている場合に診断される。
▶ 肥満の評価方法は小児と成人では異なる
・成人の場合はBMI(注1)、6~18歳の子どもは肥満度(注2)を使って肥満かどうかを計算する。
・BMIは25.0以上で肥満。
・子どもの場合は、
✓ 男児なら肥満度が25%以上、
✓ 女児なら11歳未満で30%以上、11歳以上で35%以上になると肥満。
注1)BMI = 体重(kg)÷{身長(m)×身長(m)}
18.5未満 → 低体重
18.5-25.0 → 普通体重(22が標準)
25.0-30.0 → 1度肥満
30.0-35.0 → 2度肥満
35.0-40.0 → 3度肥満
40.0以上 → 4度肥満
注2)肥満度 =[100×(現在の体重‐標準体重)/標準体重]
肥満の増加傾向は日本に限らず全世界的な現象であり、WHOは「男性の18%と女性の21%が2025年までに肥満になる」と推定しており、これは個人の40%がBMI≥25に達することを意味する。
▶ 他の幼児期・学童期の肥満評価方法
・幼児にはカウプ指数、学童にはローレル指数が用いられる。生後3ケ月未満の乳児には使用できない。
✓ 幼児 (3ヶ月〜5歳) → カウプ指数 = 体重(kg) ÷ 身長(m)2
✓ 児童・生徒(小・中学生) → ローレル指数 = 体重(kg) ÷ 身長(m)3 × 10
・成人(高校生以上)は「ボディマス指数(BMIと適正体重)」を使う。
▶ 小児肥満が成人肥満につながる確率
・幼児期肥満の25%
・学童期肥満の40%
・思春期肥満の70〜80%
→ 乳児期肥満の多くは幼児期には自然に解消していく生理的な肥満であり、将来の肥満との関連は少ない。一方、幼児期肥満は学童期肥満、思春期肥満と関連し、さらにその後の成人肥満~生活習慣病へとつながっていく。したがって、幼児期に肥満にならないことが大切。幼児期に健康的な生活習慣を身につけることが、その後の肥満予防においてとても重要。
▶ 思春期肥満とつながる生活習慣
・朝食を食べない
・時間を決めずにおやつを食べる、ジュースの摂取が多い
・夜食頻度が多い
・就寝時間が遅い、睡眠時間が短い
・テレビ視聴時間が長い
・室内での一人遊びが多い
▶ 日本人小児の肥満頻度
・11歳男児の13.31%、女児の9.36%が肥満度 20%以上(注1)の肥満傾向児(2020年)
・福島県の調査では、小児健診受診者の3~4%がBMI 2SD以上(注2)の肥満
注1:2005年度まで、性別・年齢別に身長別平均体重を求め、その平均体重の120%以上の体重の者を肥満傾向児としていたが、2006年度から、性別、年齢別、身長別標準体重から肥満度(過体重度)を算出し、肥満度が20%以上の者を肥満傾向児としている。肥満度の求め方は次のとおり。
肥満度(過体重度)=〔実測体重(kg)-身長別標準体重(kg)〕/身長別標準体重(kg)×100(%)
肥満度(過体重度)=〔実測体重(kg)-身長別標準体重(kg)〕/身長別標準体重(kg)×100(%)
注2:BMI(体重(kg)/身長(m)2)≧ SD(年齢別に算出された標準偏差)× 2
▶ 肥満が健康に及ぼす影響
・成人肥満は、高血圧症や脂質異常症、糖尿病などの生活習慣病につながる。
・生活習慣病は動脈硬化を促進するため、将来的に心筋梗塞や脳卒中となる危険性が高まる。
・生活習慣病は、大人だけでなく子どもでも発症し、子どもの頃から動脈硬化が進行することがある。
・脂肪肝や睡眠時無呼吸をおこすこともある。
▶ 肥満と生活習慣病リスクの具体的なデータ
(negative)
・小児期に肥満である場合、成人期に心筋梗塞を含む心血管疾患を発症するリスクが2倍以上になる。
・肥満のある65歳未満の男性と50歳未満の女性では、10年間に心筋梗塞や脳卒中のリスクが25~60%上昇する。
・14歳の時点で肥満だった女性は、脳卒中を発症する可能性が87%高く、31歳の時点で肥満だった女性は、脳卒中を発症する可能性が167%高い。肥満は、たとえ一時的なものであったとしても、長期的に健康に大きな影響を与える可能性がある。
・心血管疾患による死亡の相対危険度は,BMIの増加とともにJ字型を示す(下のグラフ)
→ 心血管疾患による死亡相対危険度は、男性ではBMI25を超える(1度・2度肥満)となだらかに上昇し、30を超える(3度肥満)と急激に増加し2倍を超える。
(positive)
・女性では、果物をよく食べているグループでは、あまり食べていないグループに比べ、心血管疾患による死亡のリスクが10%減少し、心血管疾患による死亡のリスクは13%減少した。
・糖尿病予防プログラムでは、7%の体重減少が、4年間の追跡調査で糖尿病を発症するリスクが58%低いことに関連していた。
▶ 具体的な肥満対策
・早寝・早起き・朝ごはんの規則正しい生活リズムを身につける。
・1日3回の食事と1回の間食(おやつ)を基本とし、カロリーや塩分の多い加工品や外食、甘い飲み物は減らす。
・ゲームやスマホ、テレビを利用する時間を減らし、その時間で体を動かす。
<参考>
・子どもの肥満について詳しく知ろう(福島県立医科大学放射線医学県民健康管理センター)
・日本小児科学会ホームページ 「幼児肥満ガイド2019」
・小児内分泌学会ホームページ 「病気の解説 肥満」
・肥満症と血管合併症、岸田 堅〔日内会誌 100:958~965,2011〕
・小児内分泌学会ホームページ 「病気の解説 肥満」
・肥満症と血管合併症、岸田 堅〔日内会誌 100:958~965,2011〕
・子どもの肥満(ke!san)