日々雑感

読んだ本やネット記事の感想、頭に浮かんでは消える物事をつらつら綴りました(本棚7)。

「関東平野」by 上村一夫

2011-02-18 23:23:07 | マンガ
 上村一夫さんの名前は「同棲時代」というマンガで聞いたことがあるくらいでした。
 揺れ動く若者の心理を味わい深く描いた傑作として私のひと世代前のベストセラーだったようです。

 他の本を購入する際、「上村一夫の自伝的戦後史」「最高傑作」というキャッチコピーに釣られてついでに購入したのがこの作品。

 全4巻、一気に読み終わったとき、涙があふれてきました。
 戦後を生き抜いた個性豊かな登場人物達の生き様に共感し、その切なさに感情が抑えられませんでした。
 戦争を経験した「昭和」という時代に生きた人々の、貴重な記録でもあると思います。
 昭和歌謡曲の代名詞であり、親友でもある阿久悠さんの詩も作品中に登場します。

 戦争中の疎開先の千葉県の農村に広がる地平線・・・それが主人公”金太”の原風景。
 親を亡くして祖父に引き取られた金太は、女装趣味の美少年”銀子”やケンカ友達の”石松”達と貧しい中にも多感で刺激的な少年時代を過ごします。

 ほどなく祖父が亡くなり、東京の知人に引き取られていく金太。
 デザイン会社に勤めながら画家を目指す金太のやや屈折した青春。戦後の混乱の中、周囲には社会の日陰で生業を営む怪しげな人々が蠢いていてストーリーに深みと広がりを持たせています。

 作品のもう一つの中心テーマは「性」です。彼自信「戦後、抑圧が解放されいろんな形の”性が”子ども達にも直接なだれ込んできた」とコメントしています。

 少年期の性への憧れと垣間見える大人の性。
 仮の親になった画家は「女体緊縛図」の大家。
 その妻は元子爵令嬢の娼婦。
 赤線の娼婦に筆おろしをされる金太。
 ゲイボーイの走りとなった銀子。
 等々、ちょっと倒錯傾向あり(苦笑)。

 種の保存のために神様が与えた”快楽”に翻弄される人間達は、古今東西の文学で取り上げられてきた永遠のテーマでもあります。
 
 ”動物の交尾”と”人間の性交”の比較を生物学者のエッセイで読んだことがあります。
 一番大きな違いは「メスにも快感があること」だそうです。
 人間に一番近いチンパンジーでさえも、性交上の快感はメスにないとのこと。

 私も「関東平野」の片隅に生まれて育った一人。
 作品中の田舎の風景はわたしにとっても”ふるさと”そのものです。
 高校を卒業してから関東を離れ、帰郷したのは15年後でした。
 子ども時代に遊んだ里山や田んぼに囲まれた家に帰ることのできる私は幸せ者なのかもしれません。街中に住んでいたときに感じた”根無し感”が解消しました。

 さて、上村氏は1986年、45歳で亡くなっています。
 私は既に彼の死亡時年齢を通り過ぎてしまいました。
 後の人生をどう過ごそうか・・・。


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