かまくらdeたんか 鹿取未放

馬場あき子の外国詠、渡辺松男のそれぞれの一首鑑賞。「かりん」鎌倉支部の記録です。毎日、更新しています。

渡辺松男の一首鑑賞 80

2022-05-10 12:56:55 | 短歌の鑑賞
  渡辺松男研究2の11(2018年5月実施)
    【夢みるパン】『泡宇宙の蛙』(1999年)P57~
     参加者:泉真帆、A・K、T・S、曽我亮子、渡部慧子、鹿取未放
     レポーター:渡部慧子 司会と記録:鹿取未放


80 みごもれるおみなの指にわがおもうお蚕様は透きゆきにけり

     (レポート)
 妊娠している女性の身体の指に注目する。そのふっくらしているであろう指に蚕を連想したのだろう。身籠もりということを思う作者の心には、神秘を感じ、つつましさがあるだろう。指を見ながら、蚕を連想しながら作者に恍惚感があったのか。(慧子)


     (当日発言)
★身籠もった女の指が蚕の透き通ってゆく感じに似ているというのでしょうか?よく分から
 なかったのですが。お蚕様と妊娠したおんなの指はどういう関係にあるのでしょう?
   (A・K)
★繭になる前の蚕は透き通った感じに なっていくのでしょうかね。(鹿取)
★身籠もるとだんだん聖なる感じになっていくのかなと。(真帆)
★「透きゆきにけり」のところは手触り感があるので、作者は養蚕をよく見る機会があった
 のかもしれませんね。(鹿取)
★「透きゆきにけり」には身籠もっているおんなの生臭さみたいなのも感じますね。
    (A・K)
★作者は「おみな」って表記していて、これはもともとは若く美しい女性を指す語ですが、
 それでも何かマリアさまみたいな清らかさではなくて、原始の女のようなふてぶてしさと
 か、気味悪い 印象を持つのは、今A・Kさんがおっしゃったように生臭さがあるからな
 んでしょうね。まあ、気味悪く思うのは細長い虫が苦手って個人的な私の嗜好もあります
 けど。A・Kさんが生臭さという言葉にしてくれたので、やっと私も自分のもやもやが言
 葉になったのですが。(鹿取)


        (まとめ)
 蚕の4齢幼虫は次の眠りに入る前に体に光沢がでるそうだ。その後眠りに入り、5齢幼虫になって7日経つと食べなくなり、透き通った体から中の絹物質が見えるため黄色~飴色のように見えるらしい。この後、繭を作り始めるという。「お蚕様は透きゆきにけり」とはこの4齢幼虫あたりの蚕を言っていて、女性の指とのアナロジーを感じているのだろうか。やっぱり生臭い感じがする。(鹿取)


          (後日意見)
 妊娠した女性の指から蚕を連想した、と解してしまってはこの歌の面白みは半減する。妊婦の「指」と「お蚕様」はまったく異なる。しかも確乎として存在している別個のものなのである。したがってこの歌では妊婦のふっくらとした指が見えている。そして同時に蚕の透明に肥えてくるぶよっとした胴体が指と入れ替わって見えてくるのである。二面、あるいは二方向へ向けられた透明への信頼がこの歌の生命なのである。
         (鶴岡善久)「森、または透視と脱臼」(「かりん」2000年2月号)


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 渡辺松男の一首鑑賞 79 | トップ | 渡辺松男の一首鑑賞 81 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

短歌の鑑賞」カテゴリの最新記事