日光龍王峡
村人の数より多し雪蛍 関根かな
雪蛍はアブラムシの一種綿虫の別名。秋に生まれた個体が綿のような分泌物を背負う。それを蛍の光に見立てた名だ。雪の降る前に飛ぶとも言われている。綿虫という呼名の方が土俗的で私好みだが、ここでは「雪蛍」という情感が籠もった呼称が効果的だ。綿虫の生息の多くは宿主であるヤチダモやトドマツ、林檎の木があるところだ。トドネワタムシ、リンゴワタムシのように名もその宿主に拠る。だが、私には海辺の虫の印象が強い。松島あたりでよく見かけるのに加えて、井上靖の小説「しろばんば」のイメージのせいかもしれない。
この句は海辺の村落と鑑賞することで津波被災の悲劇をも背負うことになる。すると雪蛍は津波で亡くなった多くの子供達をも連想させる。そして、その数が生き残った村人よりも多いということが、より悲しみを深くする。
太陽だった証女のほほえみは 沢木美子
無季だが、平塚雷鳥が喜ぶような句だ。
パン値上げバター売切れ町は雪 津髙里永子
俳句に時事と取り組むのは、世俗的になりがちで要注意だが、敬遠することはない。これは成功例。
〈高野ムツオ主宰の好句鑑賞〉
日光男体山
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