
(小熊座2018年12月号⭐高野主宰の選評より)
山毛欅の幹に耳や聴診器を当てると樹液を流れる水音が聞こえるという話が広まったことがあった。しかし、どうやら、それは風で幹が擦れる音や幹そのものが振動する音であるらしい。夢が萎んだ気持ちにもなるが、少しほっとした気持ちにもなる。そんな血潮のように水が流れる木を人間がこれまで数限りなく切り倒してきたと想像したくはなかったからだ。それでも改めて草木悉皆成仏という言葉を思い浮かべた。この句からは、水を蓄えた一本一本の山毛欅が見え、さらにその木々が形作る大きな山が見えてくる。しかも、それは月の光を浴びながら鎮座する大仏の姿に二重写しとなってくる。