刹那の愛
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ブルックリンのアンナさん

ケイトーはマリアのことをずいぶんと見下していると思うわ。

いや。。。僕は決してマリアを見下したりしていないよう。
マリアはねぇ、こうしてあなたが私のところにやって来る事をすぐに感づいたのよう。だから電話をかけて寄越したのよう。
でも。。。でも。。。どうして分かったのかなぁ~?
ケイトーって見かけよりもオツムの回転が鈍(にぶ)いところがあるのね。
ん。。。?僕のオツムの回転が鈍い?
そうよ。映画館の中だって、あなたはマリアが気づいていないと思って私の手を握ったけれど、あの子はちゃんと気づいていたのよう。
どうしてアンナに分かるんだい?
マリアはあなたの右手を握っていたわ。ケイトーが左手で私の手を握れば、それは右手にも伝わって、マリアの手にも動きが伝わるものなのよう。あの子は横目であなたの動きを見ていたのよう。
でも、アンナは僕の手を無視してスクリーンに集中していたじゃないか!
分かっていたわよ。マリアがあなたの動きを横目で見ていたことも私には分かっていたわ。
まさか。。。?どうして。。。分かるんだい?映画館の中は暗かったじゃないか。
暗かったと言っても、映画を見始めれば目はその暗さに慣れてしまうものよう。ケイトーは私のことばっかり気にしていたから、マリアの事が分からなかったのよう。私には、あなたの事もマリアの事もちゃんと見えていたわ。
でも、マリアは一言もそのことを言わなかったけれど。。。
言う訳無いじゃないの。
どうして。。。?
見極めようとしていたのよう。
見極める。。。? 何を。。。?
あなたが私にチョッカイを出している事よう。
僕はふざけてアンナに接近した訳じゃないよう。。。。だったら、僕がマジでアンナの事を好きになってしまったことを、アンナだって分かっていたよね?
ええ。。。なんとなく。。。女の直感で分かっていたわ。
僕はマリアも“自由”を認めていたと思うけれど。。。
自由って。。。自由恋愛のこと。。。?
そうさ。。。だから、マリアは僕とアンナが二人きりで Lighthouse Beach に行くのを認めていたじゃないか。



本当は3人で行くはずだったのよう。もともと、マリアが言い出したことだったのよう。私がボーイフレンドと別れてふさいでいたから。。。でも、キャッシュの仕事がもらえて、マリアはスーパーのレジの穴埋めに出かけて行ったのよう。
なんだい。。。その穴埋めって。。。?
マリアが勤めていたスーパーで急に女の子が病気で出られなくなったのよう。それでマネージャーからお声がかかって、キャッシュで払うから来てくれって。。。
つまり、失業保険をもらいながらキャッシュで働くわけ。。。?
そうよ。。。持ちつ持たれつよ。マネージャーだって助かるし、マリアも臨時収入が入るでしょう?
マリアは僕とアンナが二人だけでビーチに行くことを知っていたんだ。
ケイトーはマリアが知らないと思っていたの?
僕はアンナが僕のために混浴露天風呂に案内してくれるものとばかり思っていたよう。
実はマリアが言い出したのよう。その時冗談半分で言ったものよ。“あたし、行けないけれど、ケイトーをあたしから取らないでね”って。。。
マジで。。。?
多分、こうなる事を予測していたのよね。
だったら、いいじゃないか。。。なるようになったのだから。。。
ダメよう。。。私はマリアを裏切る事ができないわ。
でも、アンナだって、結構、あの日ビーチで僕と一緒に楽しんでいたじゃないか?
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だってぇ、もともとマリアが私のために言い出したのよう。私がボーイフレンドと別れて、ふさいでいたので、マリアが私を元気付けるために3人で Lighthouse Beach へ行こうと言う話だったのよう。 だから、私もマリアの気持ちがありがたかったので、素直にその気持ちを受けて、ケートーと久しぶりに愉快な時間を過ごしたのよう。
だからさぁ。。。今夜もその続きを。。。
ダメよう。。。調子に乗らないでよう。。。マリアの気持ちを裏切る事になるわ。
アンナって友達思いなんだねぇ~。。。僕は、ますますアンナの事が好きになってしまったよう。。。
変なところでおだてないでよう。。。とにかく、マリアはケイトーが私のアパートに来る事を分かっていたのよう。このままケイトーが私のところに朝まで居たら、マリアは絶対に傷つくわ。そういう事は私にはできないの。だから、今夜はおとなしく帰ってね。ケイトーは寅さんのように優しかったでしょう?
アンナはマジで寅さんの映画を見たことがあるの?
もちろんよう。ニューヨークには、もう80年も続いている日系人会があるのよ。そこで寅さんの映画の上映会があって日系二世のクラスメートに誘われて見に行った事があるのよう。
。。。で、アンナは日本語を勉強した事があるの?
会話はできないけれど中学校の教科書ぐらいならば何とか読めるわ。
ほおォ~。。。知らなかったなぁ~。。。
ケイトー。。。何よう、急に近づいてきたりしてぇ~
だから、アンナの友達思いの気持ちを考えて僕は帰ることにするよう。お休みのキスだよう。
そう。。。分かってくれたのね。

うん、うん。。。でもね、僕は、アンナのヌードを初めて見た時に中学生の時に見たプレーボーイのプレーメートが目の前に現れたような気がしたんだよう。
ええ。。。聞いたわ。。。ケイトーって、女心をくすぐるコツを知っているのよねぇ~。。。
うん、うん、うん。。。(ここで、ちょっと長いお別れのキスですう)。。。
ちょっと。。。ケイトー。。。くすぐったいわよう。。。うふっ。。。わたし。。。わたし。。。うふっ。。。それ以上ダメよゥ。。。
ん。。。? いいじゃないかぁ。。。?
ダメよ。。。ほんとにダメ。。。
僕は。。。僕は。。。つらいよう。。。寅さんの言葉に、「男はつらいよ」っていう台詞があるのをアンナも知ってるよね?

ええ。。。でも、やっぱりダメなものはダメなのよう。。。
思い直すことはできない。。。?
マリアは、わたしの小さな頃からの親友なのよう、その親友の気持ちを裏切る事はできないわ。
でも、アンナと僕は愛し合っていると思うけれど。。。
愛し合っているってぇ。。。ケイトーと会ってからまだ2週間なのよう。。。
だけど、僕は。。。僕は。。。アンナのことが堪らなく好きになってしまったんだよう。。。
うふっ。。。もう、本当に、これ以上はダメよう。。。お願い。。。もうやめてぇ~。。。
しかし。。しかし。。。アンナだって、ほらぁっ。。。もう、こんなにもォ~。。。
だから。。。だから、あふゥ。。。もう。。。、もう、これ以上ダメなのよう。。。ケイトーはいつもしつこいのよう。。。
思い直さない。。。?
ダメよう。。。わたしは。。。わたしは。。。自分の名前に恥じないように。。。
ん。。。?アンナの名前に恥じないように。。。?
言ったでしょう?。。。わたしの名前はgraceって意味なのよゥ。。。?その名を傷つけるようなことをしたくないのよォ~。。。
『ブルックリンのエマニエル夫人 (2008年5月26日)』より

この“ケイトー”と呼ばれているのがデンマンさんですよねぇ?

そうですよう。僕は20代の頃はケイトーと呼ばれていたんですよう。
なぜですか?
Akira と言う名前は欧米人には読みにくいらしいのですよう。「エイカイラ」と読んだり「アカイラ」と読んだり、初めから「アキラ」と読む人は珍しかった。
それ程むずかしいとは思いませんけれど。。。
でも、事実、初めから「アキラ」と読む人は珍しかったのですよう。日本映画の好きな人は黒澤明監督を知っているから、間違いなく「アキラ」と読むのですよう。
つまり、日本映画を見ない人には正しく読めたなったのですか?
そうですよう。「アカイラ」と読む人が圧倒的に多かった。しかも、女の子の名前だと思う人が多かった。未だに僕の名前を女の子の名前だと間違えてメールが届きますよう。

マジで。。。?
もちろんですよう。僕はモントリオールで貿易関係の仕事をしていた事があったので、モントリオール商工会議所のメンバーなのですよう。3年ほど前だったと思ったけれど、それまでは Mr. とか Ms. のような呼称を名前の前に付けなっかたのに、担当者が変わったらしくて呼称をつけ始めたのですよう。台帳を調べればいいのに、入力する担当者がファーストネームだけで判断してしまったのですよう。
それで、デンマンさんの名前には Mr. でなく女性の呼称の Ms. が付いているのですか?
そうですよう。
訂正するように言えばいいじゃないですか?
もう、毎度の事だから、面倒なのでそのままにしてありますよう。うしししし。。。
それで、なぜケイトーなのですか?
女の子の名前に Kate (ケイトゥ) と言う名前があるのですよう。だから、 Kato と綴れば欧米の人は 「ケイトー」 と読みますよう。ただし、ラテン系の人は 「カトー」 と間違いなく読む人が多いですよ。
。。。で、それ以来 ケイトーなのですか?
そうですよう。僕はアンナさんに、このことを話したら、彼女は全く違う事を言いましたよう。
違うって。。。どう言う事ですか?
人気テレビ番組にケイトー(Kato)と言う名のサイドキックが出てきたと言うのですよう。つまり、相棒ですよ。
その番組って。。。?
“The Green Hornet” と言う番組なのですよう。

右側の人物が Kato ですよう。なんと、あの有名なブルース・リーが演じたのですよう。左側が主人公の“グリーン・ホーネット”。僕は全く知らなかったのだけれど、アメリカでは1966年と1967年にテレビで放映されて、ずいぶんと人気が出たらしい。
それで、Kato と綴れば、誰もがケイトーと読んだのですね?
そうなのですよう。当時、テレビの番組が終わってから、10年以上経っていたけれど、Kato を知っている人は実に多かったですよう。“The Green Hornet”は、それほど人気が出た番組だったらしい。。。ところで、そろそろ本題に入らないと、この記事がまた長くなるのだけれど。。。レンゲさん、どうして“ブルックリンのアンナさん”を持ち出してきたのですか?
以前、デンマンさんは、あたしが坂田さんと洋ちゃんを同時に愛していると言って非難した事がありましたわ。
ん。。。?僕がレンゲさんを非難した。。。?
そうですわ。。。デンマンさんだって、マリアさんとアンナさんを同時に愛していましたわ。
それは、ちょっと違うと思うな。
どこが違うのですか?
レンゲさんが坂田さんと清水君を愛していたのは、同時進行ですよう。しかも、二人に身を許していたのですよう。僕は確かに、アンナさんとマリアさんを愛していたけれど、二人と体の関係を持っていたわけではありませんよう。
それは、アンナさんには拒絶されたからですわ。
ん。。。?拒絶された。。。?
そうですわ。上の記事を読めば良~く分かりますわ。
拒絶とは、ちょっと違うと思うのだけれどなあァ~。。。それで、僕がどのようにレンゲさんを非難したのですか?
思い出せないようですから、その箇所をお目にかけますわ。