昨2023年3月29日(水)、国立ハンセン病資料館の企画展「ハンセン病文学の新生面」に行ってきました。矢部顕さんのメールから知った展示でした。(ブログ〔562〕参照)
国立ハンセン病資料館は清瀬の仲間と何回か花見などに訪れているのですが、じっくり展示を見て回るのは初めてだったかも知れません。
常設展示には北條民雄の小さな日記がありました。細かで端正な文字がぎっしり綴られていました。ようやく『いのちの初夜』(北條民雄、角川文庫)と『北條民雄集』(田中裕編、岩波文庫)を読み始めています。『いのちの初夜』には矢部顕さんの友人だった光岡良二の「北條民雄の人と生活」も収められています。
企画展「ハンセン病文学の新生面」には「『いのちの芽』の詩人たち」という副題がついています。大江満雄編『いのちの芽』(三一書房)は1953年にらい予防法闘争のさなかに刊行されています。全国8つのハンセン病療養所から73人が参加する、初めての合同詩集でした。(パンフより)
今回は嬉しいことに、来場者に『いのちの芽』の復刻をいただけたのです。
常設展示は撮影不可ですが、企画展は撮影が許されていました。島比呂志、谺雄二、厚木叡(光岡良二)コーナーにカメラを向けました。
2階の図書館で、ブログでも紹介した菅龍一さんの『おじいさんの手』なども見つけました。かつて関わっていた清瀬・教育ってなんだろう会が編集した『はじめに差別があった』(国本衛ほか、現代企画室)なども図書コーナーに展示されていました。
入館・観覧は無料です。またじっくり拝観したいものだと思いました。
外に出ると今まさに桜と椿が満開でした。菜の花も綺麗でした。
ハンセン病と炭坑(上) 沈思実行(136)
ハンセン病趙さん―舌読は人間の意欲と希望と未来を表す
鎌田 慧
両手に抱えた大型の本を、顔に密着させるように近づけ、舌で舐めて
いる。点字本を舌先で読み取っている男性を、すぐ横から写したクロー
ズアップ。このハンセン病者の写真はどこかでみた。
原爆の図丸木美術館から送られた「地底の闇、地上の光―炭鉱、朝鮮人、
ハンセン病―趙根在(チョウ・グンジェ)写真展」のチラシを眺め想いを
めぐらした。
ハンセン病によって視力を失い、点字を追う指先の知覚も奪われた。
それでも読書の渇望もだしがたく、点字のかすかな凹凸を柔らかな舌で
まさぐる。障子を通して流れてくる光が、舌のシルエットをあざやかに
映しだしている。
舌は言葉をあらわす。饒舌、冗舌、毒舌、舌足らず、舌先三寸、舌の
根も乾かないうちに。舌鼓などは味覚の表現。しかし、舌読は人間の意欲
と希望と未来を表している。
「点訳のわが朝鮮の民族史今日も舌先のほてるまで読む」「ライ知らぬ
後の世の人は舌読のわが写真見ていかに思わん」
写真の主人公、金夏日(キム・ハイル)さんの短歌である。撮影したの
は在日朝鮮人カメラマン・趙根在さん。「舌読」の写真は、金さんが生活
していた群馬県草津町の国立療養所「栗生楽泉園」での、「ハンセン病市
民学会」集会のときに目にしたのだろうか。
このとき、反抗的な患者を収容した「重監房」も見学したのだが、たま
たま、金さんと文学仲間の詩人、ハンセン病市民学会の谺雄二さん
が逝去され、遺骸の前でご焼香した記憶がある。あるいは、東松山市の
国立ハンセン病資料館でみたのかもしれない。
趙根在さんは記録作家・上野英信さんと『写真万葉集筑豊』(全10巻)
の共同監修者である。在日少年は家貧しく中学校中退、炭坑で働きはじ
めた。死と隣合せの過酷な零細炭坑の坑内労働とのちのハンセン病撮影
とを結ぶ線にこの執念のカメラマンがいる。
わたしは上野さんと趙さんが、精魂こめて集録した写真集を書庫から
取りだし、上野さんに案内された、自宅の炭坑長屋の裏手にある、朽ち
果てた炭坑の暗い穴を思い出した。
(「週刊新社会」2023年2月22日)
*国立ハンセン病資料館は東村山市の誤植と思われる。
国立ハンセン病資料館は清瀬の仲間と何回か花見などに訪れているのですが、じっくり展示を見て回るのは初めてだったかも知れません。
常設展示には北條民雄の小さな日記がありました。細かで端正な文字がぎっしり綴られていました。ようやく『いのちの初夜』(北條民雄、角川文庫)と『北條民雄集』(田中裕編、岩波文庫)を読み始めています。『いのちの初夜』には矢部顕さんの友人だった光岡良二の「北條民雄の人と生活」も収められています。
企画展「ハンセン病文学の新生面」には「『いのちの芽』の詩人たち」という副題がついています。大江満雄編『いのちの芽』(三一書房)は1953年にらい予防法闘争のさなかに刊行されています。全国8つのハンセン病療養所から73人が参加する、初めての合同詩集でした。(パンフより)
今回は嬉しいことに、来場者に『いのちの芽』の復刻をいただけたのです。
常設展示は撮影不可ですが、企画展は撮影が許されていました。島比呂志、谺雄二、厚木叡(光岡良二)コーナーにカメラを向けました。
2階の図書館で、ブログでも紹介した菅龍一さんの『おじいさんの手』なども見つけました。かつて関わっていた清瀬・教育ってなんだろう会が編集した『はじめに差別があった』(国本衛ほか、現代企画室)なども図書コーナーに展示されていました。
入館・観覧は無料です。またじっくり拝観したいものだと思いました。
外に出ると今まさに桜と椿が満開でした。菜の花も綺麗でした。
ハンセン病と炭坑(上) 沈思実行(136)
ハンセン病趙さん―舌読は人間の意欲と希望と未来を表す
鎌田 慧
両手に抱えた大型の本を、顔に密着させるように近づけ、舌で舐めて
いる。点字本を舌先で読み取っている男性を、すぐ横から写したクロー
ズアップ。このハンセン病者の写真はどこかでみた。
原爆の図丸木美術館から送られた「地底の闇、地上の光―炭鉱、朝鮮人、
ハンセン病―趙根在(チョウ・グンジェ)写真展」のチラシを眺め想いを
めぐらした。
ハンセン病によって視力を失い、点字を追う指先の知覚も奪われた。
それでも読書の渇望もだしがたく、点字のかすかな凹凸を柔らかな舌で
まさぐる。障子を通して流れてくる光が、舌のシルエットをあざやかに
映しだしている。
舌は言葉をあらわす。饒舌、冗舌、毒舌、舌足らず、舌先三寸、舌の
根も乾かないうちに。舌鼓などは味覚の表現。しかし、舌読は人間の意欲
と希望と未来を表している。
「点訳のわが朝鮮の民族史今日も舌先のほてるまで読む」「ライ知らぬ
後の世の人は舌読のわが写真見ていかに思わん」
写真の主人公、金夏日(キム・ハイル)さんの短歌である。撮影したの
は在日朝鮮人カメラマン・趙根在さん。「舌読」の写真は、金さんが生活
していた群馬県草津町の国立療養所「栗生楽泉園」での、「ハンセン病市
民学会」集会のときに目にしたのだろうか。
このとき、反抗的な患者を収容した「重監房」も見学したのだが、たま
たま、金さんと文学仲間の詩人、ハンセン病市民学会の谺雄二さん
が逝去され、遺骸の前でご焼香した記憶がある。あるいは、東松山市の
国立ハンセン病資料館でみたのかもしれない。
趙根在さんは記録作家・上野英信さんと『写真万葉集筑豊』(全10巻)
の共同監修者である。在日少年は家貧しく中学校中退、炭坑で働きはじ
めた。死と隣合せの過酷な零細炭坑の坑内労働とのちのハンセン病撮影
とを結ぶ線にこの執念のカメラマンがいる。
わたしは上野さんと趙さんが、精魂こめて集録した写真集を書庫から
取りだし、上野さんに案内された、自宅の炭坑長屋の裏手にある、朽ち
果てた炭坑の暗い穴を思い出した。
(「週刊新社会」2023年2月22日)
*国立ハンセン病資料館は東村山市の誤植と思われる。