残存1輌、そのあんこうチームも行き止まり地点に追い詰められて相手の砲口が向けられるという最大のピンチに陥ったものの、思わぬカメさんチームの乱入劇にて一気に離脱を図りました。しかも相手の1輌に一撃を与えて白旗を上げさせて、です。
この劇的なシーンが見事でしたが、その兆候は追い詰められて対峙した時点で既に示されていました。ダージリン以下に足止め包囲されつつも、左右を見まわしている西住みほの姿がありました。この期に及んでも勝負を諦めていない様子であるのが分かりましたから、どこで突破をかけるのか、と期待していたのですが、カメさんチームの思わぬ乱入と自滅があって場面が目まぐるしく変わったため、何がどうなったのか、一瞬理解出来なかったのでした。
ダージリン以下は慌てずに対応して難なく38t戦車を撃破しますが、その直後の間隙を縫うようにⅣ号戦車が一撃離脱をしかけました。そのまま脇の路地へ抜けてピンチを脱しました。
おお、これが戦車道家元の娘の実力か、流石だ、と感動しました。しかも1輌を撃破して戦力差を1対3に縮めるところも見事でした。
その後の戦いぶりも見事でした。死角の多い市街地の特性を最大限に生かして隠れての近接横撃をしかけ、マチルダの3輌目を戦列外に退けました。
西住みほにしてみれば、この段階でもう自車のみですから、他を気にすることなく自在に動けるわけです。歴戦のベテランなのであれば、この単独戦が一番やりやすい筈です。一匹狼の剣豪そのものです。
さらに反対側に回って相手の動きを誘い込んでおいて、その鼻先に一撃を加え、マチルダの4輌目を無力化しました。この連続攻撃の流れが美しいほどに見事でした。西住みほが戦車道家元の娘であるというのは、こういうことか、と繰り返し打ち寄せる感動に震えたものでした。
まさに猛虎の咆哮、でした。数秒で2輌を撃破するという離れ業は、その後のガルパンアニメシリーズを通じて一度も出ていませんから、西住みほが戦車道の選手としてはトップクラスであることが理解出来ます。
これが、「そこは戦術と腕かな」のセリフの結果か、としばらく呆然としたのを覚えています。ですが、「戦術」のほうはすぐに分かりました。2輌とも、理想的な丁字の陣形で相手の側面をとっています。しかし、「腕」に関しては西住みほだけではなく、操縦手と装填手と砲撃手の連携が必須ですから、冷泉麻子、秋山優花里、五十鈴華の3人も初心者とは思えないレベルに達していることになります。マジか?と思いました。
ここで残る相手はチャーチルのみとなり、1対1の対戦に続きます。西住みほが「ここで決着をつけます」と宣言しましたが、これは正解だと思いました。連続撃破の波と言うかリズムは、百戦錬磨の戦士でも掴むのが難しいとされているからです。
ここで間をとってしまうと、次の好機がいつになるか分からなくなります。そして1対1での対戦ならば、チャーチルがまだ横腹を見せているこの時がチャンスとなります。三度目の丁字での撃破を目指すならば、上図のタイミングしかありません。
西住みほは、それをよく分かっていました。しかし、スピードを得るべくいったん間合いをとったのを見て、あっこれは丁字横撃じゃないな、帝国海軍のお家芸の一つとされた敵前回航雷撃みたいなのをやる気かな、と察しました。
敵前回航雷撃とは、駆逐艦「綾波」に乗っていた方に伺った話では、敵に牽制をかけつつ針路を横切ってさえぎり、敵の速度を落とさせて反対側に回ってすれ違いざまに魚雷を敵艦の側面に向けて放つ、という高度な戦術だそうです。スピードが勝負の鍵になる、と言われました。
雷撃射点につくまでは敵艦の攻撃をずっと受ける形になるから危険だが、大きく舵を取るので常に右か左に曲がり続けている、敵の照準もなかなか合わないから至近弾ばかりになる、それを耐えて射点に急ぐ、ついたら射角を2度ずつ付けて一斉に放つ。三管三基なら9本が照準線から1本ごとに2度ずつ加えた角度でいっぺんに敵艦の側面を目指す、反航だからすれ違いのスピードに応じて追加角度を入れるが、基本的には2度で良い、必ず1本は当る、というような証言でした。相手の横腹の後部を狙うから、舵とかにうまく当たれば万歳だ、ということでした。
実際に、これに近い戦法で第一次ソロモン海戦やルンガ沖海戦などが戦われています。第七次多号作戦にて駆逐艦「竹」が敵艦「クーパー」を撃沈した際の射点も反航時だったそうです。「竹」の艦長だった宇那木さんに、なぜ反航戦だったのですかと訊ねましたら、「偶然にそうなったが形としてはいい具合だった、反航なら敵艦との距離が一気に縮まるから、射点は一つしか無いし、そのほうが狙いやすい。撃ったらその後は一気に離脱出来るからね」と言われました。一撃に失敗したら後がないのが普通だったから、というお話でした。
要するに、西住みほは相手の死角に反対側から突っ込んで近接射撃で仕留める、という勝負に出るのだろうと思いました。ですが、砲撃は一度だけです。外したら相手も撃ってくる、装填するにも時間がかかるので、二度目は有り得ないわけです。
対決の時を悟ったのはダージリンも同じでした。味方を全て失ったショックも見せずに悠然とティーカップを持ったまま、相手の攻撃に立ち向かいます。この静かな、それでいて闘志に満ちた双眸に、しびれてファンになった方は少なくないでしょう。
ですが、私が個人的にしびれたのはそこではなく、西住みほがマチルダ撃破時の戦法とはちょっと違う構えでくるのを察した点でした。敵前回航雷撃みたいなのをやるんじゃないか、と私自身が思ったように、ダージリンも何かを瞬時に考えたのでしょう。
そのことは、チャーチルの砲口がⅣ号戦車の動きに旋回して合わせつつも、ギリギリまで発砲しなかった点に表れています。西住みほが狙い定めた「射点」がどこにあるかを見極めようとし、それを最後のギリギリまで試みた様子によく示されていました。
そして最後の砲撃のシーンです。形としては見事に敵前回航雷撃同然の形になっていましたが、しかしこれは軍艦ではなくて戦車の試合です。チャーチルの装甲は側面も厚くてⅣ号戦車の近接射撃でも抜けませんでした。
最後の一撃は有効打とならず、相手の反撃の一弾が勝ちをもぎ取りました。
西住みほは、おそらくは相手の側面ではなくて背面も攻撃焦点に入れていたのだろうと思います。戦車は背面が弱いので、出来れば背面まで回り込んで後ろを取りたかったのでしょう。しかし、リーチの差というか、相手が砲撃してくる前に撃たないといけませんから、少し焦って射撃を急いでしまったのかもしれません。
惜しかった、というのが初視聴時の感想でした。見事などんでん返しで戦力差を一気に縮めて同数に持ち込んだため、最終ラウンドの危険だが正しい戦術で勝つかに思われたため、砲撃が先でも装甲を抜けなかったら負ける、というのは私自身にとっては予想外でした。軍艦と違って戦車同士の戦いはかなり難しいのだな、装甲とか火力とかのスペックの差が重く響くのだなあ、と初めて理解したことでした。
おかげで、これまであまり興味の無かった戦車の戦いというものに思い切り惹きつけられました。ガルパンって、面白いなあ、と認識を新たにしたことでした。 (続く)
さすがに操縦技術だけはみほではどうにもできないので麻子の力量ですが、一応砲撃は静止してから発砲してますし、そんなに連射してないのでそれぞれの当時の力量でなんとかなるレベルだと思います。
(最終話で装填速度や行進間射撃の話が出てくるのはこれを踏まえてだと思いますが)