黒森峰女学園チームの副隊長、逸見エリカです。西住流家元の姉妹の下にあって存在感も今一つの感がありますが、高校生戦車道全体からみれば、一歩抜きん出た、非常に優秀な逸材です。
その生き様は、「エリカの誇り」や「フェイズエリカ」等のコミック版ストーリーにてドラマチックに描かれており、数多いガルパンキャラクターの中でもとりわけ印象に残ります。
その搭乗車は、第二次大戦中最強と謳われたティーガーⅡです。テレビシリーズや劇場版のアニメにおいてはヘンシェル砲塔タイプ、コミック版「フェイズエリカ」ではポルシェ砲塔タイプですが、いずれにしてもティーガーⅡを任されている事には変わりがありません。黒森峰女学園チーム内での逸見エリカがいかに高評価を得ているかが分かります。
しかし、テレビシリーズの大洗女子学園チームとの決勝戦においては、序盤でアリクイさんチームの三式中戦車チヌを撃破したものの、その後は相手の奇策や先手に翻弄され続け、最強戦車としての真価を発揮出来ないままに終わりました。
しかし、その顛末になんとなく違和感を覚えたファンは少なくなかったようです。もともと黒森峰女学園チームは、ドイツ機甲師団の末裔に相応しい高スペックの強力な車輌群を擁しており、その要を占めるティーガーⅡ一両だけでも、相手の数両を瞬時に無力化出来る実力を備えます。
ですが、アニメ本編ではそうした恐るべき存在感が微塵も描き出されておらず、史実すら無視したような、奇妙な展開にて物語が進んでしまったのは周知の通りです。
これに関しては、水島監督自身が「黒森峰がバカになった」と吐露しており、制作サイドにおいても一定の反省意識が介在したもののようです。史実では幾多の戦績を誇り、敵には最後まで恐れられたドイツ戦車部隊が、その本来の姿を少しでも示してくれれば、戦車マニアも多いガルパンファンの大多数が、やっと納得してくれるであろう、ということは、誰の目にも明らかな事でした。
なので、劇場版にて再びその勇姿が見られたことに大喜びし、その働きを大いに期待したファンは少なくなかったでしょう。相手はパーシングやチャーフィーといった侮れぬ布陣でしたが、しかしティーガーⅡなら存分に対抗出来る、頑張れ逸見エリカ、と心の中で叫んで応援した方も多かった筈です。
かくいう私も、その一人でした。劇場の大スクリーンに映し出されたティーガーⅡの姿が、正直言って、僅かな「希望」の一つでありました。
そして、「希望」は確かな歩みを見事に示してくれました。西住まほの依頼で先陣を務めて敵中に切り込んだティーガーⅡの躍動に、手に汗握るスリリングな感動を覚えました。敵の迎撃弾を軽くはじいて反撃を成功させた瞬間、心の中で拍手喝采せずにはいられませんでした。
その後もティーガーⅡは、チームの重戦車群の一翼を占めて作戦行動を継続し、相手チームの三副官パーシング勢との格闘戦でルミ車を撃破、強力なバミューダ陣の一角を突き崩しました。しかし、横に回り込んだアズミ車への対応が叶わず、次の瞬間に撃破されて白旗を挙げました。
しかし、ティーガーⅡの最後の戦果の影響の大きさは周知の通りでした。ルミ車を失ったバミューダ陣に再起は有り得ず、残る二両も各個につぶされて、大学選抜チームの中心戦力は一気に崩壊しました。
かくして味方の勝利に貢献したティーガーⅡの行動終了後の姿は、ゆらめく白旗の下に静かに横たわりつつも、なお勇者の貫録を維持しており、ドイツ最強戦車の名に恥じぬものでありました。
よくやった、それでこそティーガーⅡだ、と心の中で何度も手を叩き、こみあげてくる感涙をおさえるべく上を見上げたことでした。
そのティーガーⅡを、ガルパン戦車制作の第三十八作目に選びました。既にプラッツの公式キットもリニューアルを終えて模型店の店頭に並んでいましたが、選んだキットは上図のタミヤの製品でした。ミリタリーミニチュアシリーズの164番の品です。
事前調査によれば、ティーガーⅡのキットに関しては、公式キットの元製品のドラゴン、タミヤの両方の品の差は殆どありません。公式キットにおいて一部パーツの不足が指摘される点を別にすれば、両者のキットの精度および制作の難易度は拮抗しており、好みで選べば良いというレベルです。
したがって、ガルパン仕様への修正、改造に関しても大体は似たような内容になると見込まれます。デカールがある分、公式キットの方が有利、パーツが不足なく揃っている点に関してはタミヤキットの方に長所がある、というぐらいの差異にとどまります。
ただ、販売価格においては大きなギャップがあります。定価は公式キットが8100円、タミヤキットが3900円で、倍以上も違います。店頭での値引き販売額および中古市場での価格を見ますと、前者は7500円から6000円前後、後者は3500円前後から2500円前後にて推移しており、価格差がより開いてゆく傾向があるようです。
それで、今回の制作においては、単純に予算を節約したいと考えて、安い方に落ち着きました。デカールは、今まで使用しているモデルカステンのガルパンデカールセットがありますので、充分でした。
そして留意すべき点は、ガルパンのティーガーⅡがテレビシリーズでも劇場版でも同じ姿で登場している、ということです。公式ガイドブックの「アハトゥンク・ガールズ&パンツァー2」の図面では、砲塔側面の予備履帯の位置が修正されて劇場版仕様になっていますが、劇場版の劇中車はテレビシリーズ版の仕様のままで出ています。
つまり、ティーガーⅡは、ずっとテレビシリーズ版仕様のままで活躍しているわけであり、再現製作においても選択肢は一つしかありません。
ティーガーⅡに限らず、黒森峰女学園チームの所属車輌については、劇場版の劇中車は、ティーガーⅠの背面装備品のC形シャックルの作画ミスが修正されたのみで、ティーガーⅠもパンターG型もテレビシリーズ版仕様のままで出ています。ガルパン仕様のテレビ版、劇場版の作り分けが必要ありません。これは、ある意味楽な状況だと思います。
パッケージの中身です。大型の重戦車ですが、パーツ数は必要最低限におさえられており、初心者でも楽に組み立てられるように配慮されています。公式キットの方は部品の分割が多くなっていますので、パーツ数はタミヤ品よりも増えています。
ステップ1では、下部車体にサスペンションなどを取り付けます。ガルパン仕様への修正点が一ヶ所あります。
背面パネルのパーツC19です。このパーツにガルパン仕様への修正点があります。
上図の赤円内の円環状のモールドです。実車では排水管にあたります。
公式設定図では、この排水管がありません。作図の段階で省略されたのでしょう。
そこで、円環状のモールドを削り取りました。
あとは、ガイドの指示に従って進めました。関連するパーツを全て切り出して揃え、仮組みを行って状態を確認しました。さすがに安定のタミヤ製品、どこにも違和感や不具合は感じられませんでした。
全て組み上がりました。以前に同じ黒森峰女学園チームのヤークトティーガーを制作した際に、同じ足回りのパーツの組み上げを行いました。下部車体と足回りは、今回のティーガーⅡと共通であるからです。
ただ、あちらはドラゴンキットの常でパーツの分割が多く、完成すれば見えなくなる部分にまでパーツが用意されて組み立て手順が多くなっていた記憶があります。それに比べると、今回のキットは本当に楽でした。 (続く)