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今多コンツェルン会長室直属のグループ広報室に勤める杉村三郎(すぎむら さぶろう)は或る日、拳銃を持った老人によるバスジャックに遭遇。警察の突入、そして突然の拳銃の暴発で犯人は死亡、人質は全員無事に救出され、3時間程で呆気無く、事件は解決したかに見えたのだが。
しかし、其処からが本当の謎の始まりだった。其のバスに乗り合わせた乗客及び運転手の元に、或る日、死んだ犯人から慰謝料が届く。何故、既に死んでしまった、然も貧しい筈の老人から大金が届いたのか?
そして、其れを受け取った元人質達にも、様々な心の揺れが訪れる。警察に届けるべきなのか?其れとも・・・。
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宮部みゆきさんの小説「ペテロの葬列」は「誰か Somebody」、そして「名もなき毒」に次ぐ、「杉村三郎シリーズ」の第3弾なのだそうだ。「なのだそうだ」と記したのは、前2作を読んでいない為。
抑、宮部作品が余り好きじゃないというのが在る。「ソロモンの偽証」はまあまあ面白かったが、兎に角、文章が冗長で、読み進めるのが辛くなるのだ。文章に無駄が多く感じられ、「半分は大袈裟にしても、スッキリした文章にしたら、3分の2位の分量で済むんじゃないの?」と毎回思ってしまう程。
今多コンツェルン会長・今多嘉親(いまだ よしちか)が、愛人との間に儲けた娘・菜穂子(なほこ)。彼女が或る事件を切っ掛けに知り合った杉村三郎に恋心を抱き、彼と結婚。しかし、此の結婚は多くに祝福された物では無く、寧ろ両家からは反対の声が多く上がっていた。今多家の親戚筋からは「何処の馬の骨とも判らん男と。」と、そして杉村家からは「女性の家族の財力に依存する紐の様だ。」という理由で。菜穂子との結婚の条件として「勤務していた出版社を辞め、今多コンツェルンのグループ広報室に勤務する。」事になった三郎だが、野心を持たない彼は、嘉親と其の家族達とは良好な関係を築くも、常に居場所の無さを感じてもいた。親の反対を押し切って結婚した事で、実家と形式上の絶縁状態に在る三郎は、何故か次々と事件に巻き込まれて行く。ざっくり言えば、「杉村三郎シリーズ」はそんな内容。
結論から言えば、面白くて一気に読み進んでしまった。登場する「人」や「事物」の関係性が良く判らない儘に、次々と新しい謎や疑問が出て来て、どんどんストーリーの中に引き込まれてしまうのだ。其の関係性が判る度に、意外性に驚かされる。一番の驚きは、最後の最後に待ち受けている「三郎&菜穂子の関係の変化」だろう。前2作を未読な自分でも、「こんな結末って在りなの!?」と絶句してしまったし。
自分の総合評価は星4つと高いのだが、ネット上の評価は面白い程にはっきりと分かれている。私見だが「概して男性は低い評価を、逆に女性は高い評価を下している。」“様な”気がする。
恐らくは、最後の最後に待ち受けている「三郎&菜穂子の関係の変化を、どう捉えるか?」、もっと言ってしまうと「菜穂子の言動を、どう捉えるか?」が大きく影響し、男性の方が「理解出来ない・・・。」と思う割合が多く、低い評価に結び付いているのではないだろうか。自分も菜穂子の言動は理解し難かったけれど、純粋に「ストーリーに引き込まれた度合」から高い評価を付けさせて貰った。