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連続通り魔事件の犠牲者となり、10年経った今も“植物人間”として眠り続ける娘・絵美(えみ)を持つ、東池袋署の刑事・夏目信人(なつめ のぶひと)。数々の事件に遭遇し、独自の眼差しで手掛かりを見詰め、鮮やかに謎を解いて行く。
今回、夏目が対するのは5つの事件。抜き差しならない状況に追い込まれた犯人達の心を見詰める夏目が、最後にした“約束”とは。
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薬丸岳氏の「刑事・夏目信人シリーズ」は、TVドラマ化もされた人気シリーズ。東野圭吾氏の「加賀恭一郎シリーズ」も人気シリーズとして有名だが、同シリーズの主人公・加賀恭一郎(かが きょういちろう)と夏目信人は、キャラクターが非常に似ている。「周りから、変人と思われている。」、「過去に悲惨な経験をし、心に深い傷を負っている。」、「刑事になる前は、全く異なる職種に就いていた。」等がそうだ。“デビュー”は加賀恭一郎の方が四半世紀早いので、薬丸氏が主人公のキャラクター設定をする上で、恐らくは加賀恭一郎の事を可成り意識したと思われる。
そんな感じで非常に似たキャラクター設定では在るのだが、シリーズ自体の深みで言えば、加賀恭一郎シリーズの方が、遥かに深みが在る様に感じている。作品数の多寡による違いとかでは無く、読後に残る余韻の深さが全然違うのだ。
今回読了した「刑事の約束」は、刑事・夏目信人シリーズの第3弾に当たる。そして表題作でも在る短編小説「刑事の約束」では、夏目信人を喜ばせる或る奇跡が起こるのだけれど、其れと引き換えと言うのだろうか、彼の心に一生消えないで在ろう深い傷が、新たに刻まれてしまう。彼が或る人物と交わした、其の相手を思い遣っての約束が、彼を終生苦しませる事になる(で在ろう)というのは、堪らない思いになってしまうし、読後感も後味の悪さだけ。
唯、此の後味の悪さが在ったからこそ、夏目信人というキャラクターに深みが加わったとも言え、今後の同シリーズの展開が期待出来るかもしれない。
総合評価は、星3つ。
「オムライス」が印象に残られた作品ならば、今回の表題作でも在る「刑事の約束」は、衝撃的な内容に感じられる事と思います。「オムライス」では、タイトル通りオムライスが重要な役割を果たしますが、今回の作品でも矢張り重要な役割を果たしています。
夏目信人というキャラクターは、様々な思いを背負っている。元々は法務技官として加害者の心に寄り添い、彼等の更生を第一義にして生きて来た。しかし、自身の娘が通り魔に遭い、植物人間となった事で、犯罪者を憎む気持ちが増し、其の結果として法務技官を辞め、警察官に転職したという経緯を持つ。
とは言え、時には加害者の身に寄り添ってしまう所が在り、其の事が又、彼を苦しめる事にもなる。
今回の救いが無い結末が、彼をどういう風に導いて行くのか?次作が気になります。