「増築」という言葉及び其の意味を知らない人は先ず居ないだろうが、では「減築」という言葉になると、「聞いた事すら無い。」という人も結構居るのではなかろうか?
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減築:リフォームに際し、床面積を減らす事。減築するメリットは「既存の建物を完全に取り壊し、新たに建て直すよりも、コストが安く済む。」、「建物の総重量が減る事で、耐震性が向上する。」、「通風性や通光性が向上する。」、「冷暖房の効率がアップする。」等が挙げられる。
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「減築」という概念を知ったのは、4年前の事。ドイツのライネフェルデ=ヴォアビスという都市は長年、人口の減少に悩まされていたのだが、供給過多の集合住宅を全て取り壊すのでは無く、一部を間引く様に取り壊したり、中の住居を繋げて間取りにヴァリエーションを付けたりする等し、「既存の住環境の質を高める。」事で住民の満足度を上げ、住民の流出の抑止、そして新住民の獲得を企図しているという事だった。
此の減築という概念を語る上で、キーになるのが「人口の減少」。先進国では「人口減少社会の到来に、どう対応するか?」が重要課題となっているが、「人口減少により、既存の建造物のニーズが下がる。」というのが在るからだ。「ニーズが下がった既存の建造物を全て建て直すというのでは無く、適正な規模に縮小し、其の機能の維持を図る。」という観点から、減築というのが重要視される様になって来た。
8月8日に放送された「ワールドビジネスサテライト」【動画】内で、「大減築時代の到来!?」という特集が組まれていた。
今年3月、ロンドンにオープンした「アクアティクスセンター」は、50mのコースが10レーンもある本格的なプールで、イギリス国外からも利用者が殺到する等、1日平均で約1,800人が利用する人気施設。此処は元々ロンドンオリンピックの水泳競技会場として使われていたのを、一般人向けに減築した物。建物の両サイドに翼の様に広がっていた1万7千人分の観客席を丸ごと撤去し、観客席は2,500人分迄に減らした。其の為、オリンピック時には15人必要だった技術スタッフが、現在では4人に減らす事が出来、運営コストを下げられたと言う。
【アクアティクスセンター(改修前)】
【アクアティクスセンター(改修後)】
此の施設は元から、規模を縮小出来る様に設計されていたのだとか。北京オリンピックの際にメイン・スタジアムとして、日本円で約400億円を掛けて建てられた通称「鳥の巣」が、今は滅多に使われる事も無く、年間約10億円もの維持費を払い続けているのとは大違いだ。
JR倉敷駅の駅ビル屋上は、現在、工事の真っ最中。元々8階建ての建物だったが、工業用のダイヤモンドを使った特殊なワイヤーでコンクリートの柱や梁を切断し、3階より上を昨年から解体しているのだ。(来年、オープン予定。)郊外にショッピング・センターが出来た事で、倉敷駅周辺の買い物客は近年、減少の一途。床面積を減らす事で、採算性を上げ様としている。「スクラップアンドビルドだけで無く、既存の建物を生かす選択肢が大事と、世の中の状況を見て思う。」とは、JR西日本の創造本部に在籍する田染茉莉子さんのコメント。
【JR倉敷駅駅ビル(改修前)】
【JR倉敷駅駅ビル(改修後イメージ)】
浜名湖に面し、50年以上の歴史を持つ舘山寺温泉。此の町の中心部に建つ「ホテルウェルシーズン浜名湖」は、嘗て「8階建て」と「13階建て」の2棟を有する大型ホテルだった。しかし、バブル崩壊以降は客足が減り続け(舘山寺温泉の利用客は、ピーク時の1992年には67万人だったが、昨年は43万人とピーク時の3分の2程に落ち込んでいるとか。)、周辺では倒産するホテルも続出。其処で5年前、同ホテルは13階建ての棟の4階より上を減築し、総部屋数を「200」から「122」に迄減少させた。
そうした所、客数自体は減築前より減ったものの、施設の維持管理費が約2割減り、客室稼働率は約8割と高い率をキープ。結果として営業利益は、減築前よりも約1割アップしたのだとか。
財政難に苦しむ地方自治体は、枚挙に遑が無い。「維持管理費が嵩む公共施設をどうするか?」に、多くの地方自治体は頭を悩ましている。番組内で取り上げられていた千葉県佐倉市の消防署も、そんな施設の1つで、一時は取り壊しも検討されていたと言う。しかし、3階建ての建物を、2階建てに減築する事を選択。建て替えならば約5億円が掛かる所、減築では約1億3千万円で済んだ。
公共施設の廃止は、「住民サーヴィスの継続」という観点から、中々実行するのは難しい。公共施設を取り壊すのでは無く、減築によって施設の面積を減らし、維持管理費等のコストを下げ、そして維持して行くというスタイルが、今後広がって行くのではないかと。
考えさせられる事の多い、非常に興味深い特集だった。