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「神社に詩集を置かせてくれ。」と頼んで来た女子高生の早川佑紀奈(はやかわ ゆきな)には、直井玲斗(なおい れいと)だけが知る重大な秘密が在った。
一方、認知症カフェで玲斗が出会った記憶障害の在る少年・針生元哉(はりゅう もとや)は、佑紀奈の詩集を見てインスピレーションを感じる。玲斗が2人を出会わせた所、瞬く間に意気投合し、思い掛けない プランが立ち上がる。
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東野圭吾氏の小説「クスノキの女神」は、2020年に上梓された「クスノキの番人」(総合評価:星4つ)の続編。「妻子持ちの男性との間に儲けた玲斗を、女手で一つで育てる事にした母・美千恵(みちえ)。自身の母・富美(ふみ)と一緒に暮らし、彼女に玲斗の面倒を見て貰い乍ら、水商売で働き詰めた美千恵だったが、無理が祟り、玲斗が小学校低学年の時に病死してしまう。父が誰なのかも知らず、幼くして母を亡くした玲斗は、腹癒せで犯した罪により逮捕された事で、自暴自棄な思いになっていたのだが、そんな彼の前に母の腹違いの姉・柳澤千舟(やなぎさわ ちふね)が現れる。軽度認知症を患い、記憶がぽっかり抜け落ちる事が屡々在る彼女から、月郷神社に在る『其の木に祈れば、願いが叶う。』と言われている“不思議な楠の番人”を任される事になる。」というのが、「クスノキの番人」のストーリー。
今回の「クスノキの女神」には、「軽度認知症を患っている柳澤千舟。」、「脳脊髄液減少症を患う早川佑紀奈の母親。」、そして「脳腫瘍の影響で、一度眠ったら、其れ迄の記憶が殆ど消滅してしまうという記憶障害を持つ針生元哉。」という、“脳に病を抱える3人の人物”が登場する。何れも日常生活に大きな支障を来す病気だが、個人的には柳澤千舟により強く感情移入してしまった。と言うのも、以前書いた様に「母方の伯母が認知症を罹患。」しており、其の症状(「普通に作れていた料理が、作り方を完全に忘れてしまい、茫然自失状態になってしまう。」、「自分が今居る場所が、全く判らなくなってしまう。」等。)が千舟にとても似ているので。「日に日に記憶が失われて行き、出来ない事が増えて行く。」というのは、非常に恐怖だと思う。
「幻想的な光景が、在り在りと頭に浮かぶ筆力の高さ。」は相変わらずだが、“大事な人達との別れ”が何とも切ない。“神秘的な現象”が描かれているからこそ、“非情に感じてしまう現実”が、より心にインパクトを与えるのだろう。恐らくは今回の作品が“最後”で、続編が書かれる事な無さそうなのが残念だ。
総合評価は、星3.5個とする。