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真面目なだけが取り柄の会社員・倉田太一(くらた たいち)は、或る夏の日、駅のホームで人の列を無視して車内に入り込もうとした男を注意した。
すると、其の日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐ様になる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死の猫が投げ込まれた。更に、車は傷付けられ、部屋からは盗聴器迄見付かった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。
一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長・真瀬(まなせ)に不正の疑惑を抱いた事から、窮地へと追い込まれて行く。
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池井戸潤氏の小説「ようこそ、わが家へ」。タイトルだけだと「ほんわかした感じの作品」の様にも感じるが、執拗なストーカー攻撃と社内トラブルに懊悩させられる50過ぎ男の話で在る。
勤務先の銀行から“使えない人間”という烙印を押され、取引先の1つで在る中小企業に出向させられた倉田は、御人好しで真面目な人柄。家庭は円満なれど、銀行からは追い出され、出向先では“余所者”として扱われ続ける彼が、車内に割り込もうとした男を注意した事で、執拗なストーカー攻撃に遭う様になってしまう。公私両面で、大きな悩み事を抱える事になった訳だ。
「巨大な敵と闘う主人公が、周りの人間達の支えによって奮起し、様々な困難を乗り越えて行く。」というのは池井戸作品(特に経済小説)の特徴だが、此の作品も其の例外では無く、倉田の家族や部下が彼を支えている。
「普通に考えれば、恨みを買う様な事は一切していないのに、恨みを買ってしまう。」という事態が、近年は増えている様に感じる。「向けられるべきでは無い悪意を、素性の判らない人間から向けられる。」というのは、恐怖以外の何物でも無いだろう。
読後に爽快感を覚える事が池井戸作品には多いのだが、「ようこそ、わが家へ」に関しては、爽快感と「何か嫌な感じ」とか相半ばした。「何か嫌な感じ」が残ったのは、ストーカーが“本当に”反省したのかが疑問だったり、ストーカーに対して或る人物が“攻撃”し返した事等が原因。「自分が嫌な事をされたのだから、相手にも嫌な事をしても構わない。」というのでは、負の連鎖を生むだけだと思う。
とは言え、池井戸作品は面白い。一気に読了してしまったし。総合評価は、星3.5個とする。
オルゴールの件及び長男の件、何方も然も在りなんという感じでは在るのですが、家族の団結という流れが良かっただけに、長男の件は個人的に後味の悪さを残しました。
でも、決して強いとは言えない普通の主人公を、家族や部下が支えるという所は凄く良かったし、其の点にはホッとさせられましたね。