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アニメ製作プロデューサー・渡瀬智哉(わたせ ともちか)は、念願だったSF小説「アルカディアの翼」のTVアニメ化に着手する。然し、業界の抱える「課題」が次々と浮き彫りとなり、波乱の状況下、窮地に追い込まれる。
一方、フリー・アニメーターの文月隼人(ふづき はやと)は、或る理由から波紋を広げる“前代未聞のアニメ”への参加を決意するが・・・。
アニメに懸ける男達の人生が交差する時、“逆転のシナリオ”が始動する。
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塩田武士氏の小説「デルタの羊」は、アニメ業界で働く人々の姿を描いている。正直に言えば、読み始めて直ぐに読むのを止め様かと思った。SF作品は嫌いじゃないけれど、苦手なタイプのSF作品の世界観が描かれていたので。でも、我慢して読み続けると、登場人物で在る渡瀬や文月が魅了されたSF小説「アルカディアの翼」からの抜粋で在る事(物語中の物語という設定。)が判明。以降は、“現実社会”が描かれて行く。
アニメ業界に関する知識は、一般人が持つ程度しか無い自分なので、アニメが作られて行く上での“役割分担”や“権利関係の煩雑さ”、アニメ・ビジネスを巡る米中との苛烈な競争等、興味深い内容が少なく無い。アニメ業界に関して詳しく調べ上げ、其の上で作品に仕上げて行った跡が見受けられ、感心させられた。
唯、残念な点が無い訳では無い。此の作品が連載されていたのは昨年で、当時は“新型コロナウイルス感染症”なんて、誰も知らなかっただろう。単行本として今年10月に上梓される時点で、新型コロナウイルス感染症に関する記述が付け加えられた様だけれど、付け焼き刃的な感は否めない。
又、アニメ業界の置かれている厳しさが、労働環境面や金銭面から描かれているのだけれど、上梓されて以降に「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が爆発的な大ヒットを記録し、莫大な利益を生み出している現実を思えば、「“今”の状況とは違うかな。」と思ってしまう。
新型コロナウイルス感染症が発生する“前”と“後”とでは、我々が置かれている環境が大きく変わった様に、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が公開される“前”と“後”では、アニメ業界も大きく変わった事だろう。仕方無い事とはいえ、“情報の古さ”が感じられてしまうのだ。
様々な点を考え合わせ、総合評価は星3つとする。