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或る夜、とある社殿の中で井坂伊織(松山ケンイチ氏)を始めとする9人の若侍が密議を凝らしていた。汚職の張本人で在る次席家老・黒藤(小林稔侍氏)と国許用人・竹林(風間杜夫氏)の粛清の意見書を城代家老・睦田(藤田まこと氏)に提出したが受け入れて貰えなかった為、大目付・菊井(西岡徳馬氏)に話をした所、「更に詳しい話を聞きたいので、仲間全員を社殿に集める様に。」と命じられたからだった。意気上がる若侍達。しかしその時、彼等の前に社殿の奥からよれよれの紋付袴の浪人・椿三十郎(織田裕二氏)が現れ、社殿の周りが菊井の手の者によって取り囲まれている事を告げる。動揺する彼等を制して、三十郎は9人を床下へ隠し、一人社殿の外に打って出た。その時、敵方の室戸半兵衛(豊川悦司氏)はこの浪人が只者では無い事を知り、寄せ手に引き上げを命じた上で三十郎に言葉を掛けた。「貴公なかなか出来るな。仕官の望みが在るなら、俺を訪ねて来い。」と。
寄せ手が引き上げた後、三十郎の前に畏まる若待達。城代家老の身を案じ「こうなったら、生きるも死ぬも9人!」と思い詰める彼等に、三十郎は「10人だ!手前達の遣る事は、危なくて見ちゃいられねぇ!!」と一喝する。そして一同は、夜陰に紛れて城代家老宅へと向かうのだった。
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45年前に公開された”世界の黒澤”の傑作「椿三十郎」。「家族ゲーム」の森田芳光監督が、「椿三十郎を三船敏郎氏から織田裕二氏、室戸半兵衛を仲代達矢氏から豊川悦司氏」に変えてリメイクした「椿三十郎」を鑑賞。「転校生 さよならあなた」や「犬神家の一族」、「日本沈没」、「戦国自衛隊1549」、「PLANET OF THE APES」等、リメイク作品には失望させられるケースが結構多い。(アニメ「時をかける少女」の様な例外も在るが。)オリジナル作品への評価が高ければ高い程、リメイク作品にはよりシビアな目が向けてしまうもので、だからこそ内容に失望させられてしまう可能性も高くなるのだろう。
一応”映画ファン”を自任しているので、黒澤作品もメインどころは見ている。「椿三十郎」も2度見ているが、記憶違いで無ければ今回のリメイクの台詞回しは黒澤版をかなり忠実に再現している様に思う。ストーリーは面白いし、懸念していた織田氏の演技もそれ程悪くなかった。脇役もなかなかで、特に小心者の竹林を演じた風間氏の演技が光っていた。
だが、何か物足りなさを感じてしまう。この作品だけならばもっと高い評価を下しても良いのだろうが、黒澤版を知っているだけに充足度は下がってしまう。寄せ手の人数が多く配されているのにも拘わらず、画面から圧倒される物が余り伝わって来ない。御家騒動という一大事を描き乍ら、コップの中の嵐の様な雰囲気が漂っている。黒澤版がヘビー級の試合とすれば、今回の作品はミドル級の試合といった感じか。(あくまでも作品から伝わって来る”重さ”の喩えとして使ったのだが、個人的にはミドル級の試合の方が好きだ。)
演技力に疑問を感じる役者が何人か居たのも残念。又、三十郎は「それは良くないぜぃ。」といった様に、言葉の最後に「ぜぃ」をやたらと付けるのが特徴だが、これが織田氏のキャラと余りにも似つかわしく無く、この言葉遣いが最後迄気になって仕方なかった。萬屋錦之介氏等の例外も居る事は居るが、個人的に声質の高い役者は”時代劇の主役”に余り合わない様な気がしている。
そして最も物足りなさを感じたのが、三十郎と室戸の決闘シーン。「暫し対峙していた二人が、瞬時に刀を抜いて白刃一閃すると、斬られた室戸の身体から大量の血がどばっと噴き出す。」というのが黒澤版の最大の見所とも称されている。モノクロ作品で在り乍ら、鮮血の迸りを”見ている側”に感じさせる大迫力。その鮮血の迸りが、今回の作品に描かれなかったのは寂しい限り。「余りにも残酷。」という判断で省かれたのだろうか?
総合評価は星3.5個。
或る夜、とある社殿の中で井坂伊織(松山ケンイチ氏)を始めとする9人の若侍が密議を凝らしていた。汚職の張本人で在る次席家老・黒藤(小林稔侍氏)と国許用人・竹林(風間杜夫氏)の粛清の意見書を城代家老・睦田(藤田まこと氏)に提出したが受け入れて貰えなかった為、大目付・菊井(西岡徳馬氏)に話をした所、「更に詳しい話を聞きたいので、仲間全員を社殿に集める様に。」と命じられたからだった。意気上がる若侍達。しかしその時、彼等の前に社殿の奥からよれよれの紋付袴の浪人・椿三十郎(織田裕二氏)が現れ、社殿の周りが菊井の手の者によって取り囲まれている事を告げる。動揺する彼等を制して、三十郎は9人を床下へ隠し、一人社殿の外に打って出た。その時、敵方の室戸半兵衛(豊川悦司氏)はこの浪人が只者では無い事を知り、寄せ手に引き上げを命じた上で三十郎に言葉を掛けた。「貴公なかなか出来るな。仕官の望みが在るなら、俺を訪ねて来い。」と。
寄せ手が引き上げた後、三十郎の前に畏まる若待達。城代家老の身を案じ「こうなったら、生きるも死ぬも9人!」と思い詰める彼等に、三十郎は「10人だ!手前達の遣る事は、危なくて見ちゃいられねぇ!!」と一喝する。そして一同は、夜陰に紛れて城代家老宅へと向かうのだった。
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45年前に公開された”世界の黒澤”の傑作「椿三十郎」。「家族ゲーム」の森田芳光監督が、「椿三十郎を三船敏郎氏から織田裕二氏、室戸半兵衛を仲代達矢氏から豊川悦司氏」に変えてリメイクした「椿三十郎」を鑑賞。「転校生 さよならあなた」や「犬神家の一族」、「日本沈没」、「戦国自衛隊1549」、「PLANET OF THE APES」等、リメイク作品には失望させられるケースが結構多い。(アニメ「時をかける少女」の様な例外も在るが。)オリジナル作品への評価が高ければ高い程、リメイク作品にはよりシビアな目が向けてしまうもので、だからこそ内容に失望させられてしまう可能性も高くなるのだろう。
一応”映画ファン”を自任しているので、黒澤作品もメインどころは見ている。「椿三十郎」も2度見ているが、記憶違いで無ければ今回のリメイクの台詞回しは黒澤版をかなり忠実に再現している様に思う。ストーリーは面白いし、懸念していた織田氏の演技もそれ程悪くなかった。脇役もなかなかで、特に小心者の竹林を演じた風間氏の演技が光っていた。
だが、何か物足りなさを感じてしまう。この作品だけならばもっと高い評価を下しても良いのだろうが、黒澤版を知っているだけに充足度は下がってしまう。寄せ手の人数が多く配されているのにも拘わらず、画面から圧倒される物が余り伝わって来ない。御家騒動という一大事を描き乍ら、コップの中の嵐の様な雰囲気が漂っている。黒澤版がヘビー級の試合とすれば、今回の作品はミドル級の試合といった感じか。(あくまでも作品から伝わって来る”重さ”の喩えとして使ったのだが、個人的にはミドル級の試合の方が好きだ。)
演技力に疑問を感じる役者が何人か居たのも残念。又、三十郎は「それは良くないぜぃ。」といった様に、言葉の最後に「ぜぃ」をやたらと付けるのが特徴だが、これが織田氏のキャラと余りにも似つかわしく無く、この言葉遣いが最後迄気になって仕方なかった。萬屋錦之介氏等の例外も居る事は居るが、個人的に声質の高い役者は”時代劇の主役”に余り合わない様な気がしている。
そして最も物足りなさを感じたのが、三十郎と室戸の決闘シーン。「暫し対峙していた二人が、瞬時に刀を抜いて白刃一閃すると、斬られた室戸の身体から大量の血がどばっと噴き出す。」というのが黒澤版の最大の見所とも称されている。モノクロ作品で在り乍ら、鮮血の迸りを”見ている側”に感じさせる大迫力。その鮮血の迸りが、今回の作品に描かれなかったのは寂しい限り。「余りにも残酷。」という判断で省かれたのだろうか?
総合評価は星3.5個。
「蜘蛛巣城」では武将・鷲津武時(三船敏郎氏)に無数の矢が浴びせられるシーンが在りますが、「リアルな恐怖の表情を撮りたい。」と弓道の有段者数人を呼んで至近距離から本物の矢を一斉に放たせたという黒澤監督。「あの野郎、本当に俺を殺す気か!」と”世界の三船”が大激怒したという話は有名ですよね。「天国と地獄」ではモノクロ作品で在り乍ら、煙突からピンク色の煙が上り立つシーンだけがカラーという映像処理が光っていましたが、あの撮影でもカメラの前をほんの一瞬横切るだけの民家に「あの屋根が邪魔だ。」として、建て直しを条件に屋根の取り壊しをさせてしまったのも伝説。又、「七人の侍」では雨が降り頻る中を多数の騎馬隊が疾走するシーンで、「迫力が無い。」として泥濘の泥に砂糖水を混ぜ、粘り気を帯びた泥水が飛び散る”重さ”で迫力を演出したというのも、映像美に拘る黒澤監督ならではの話と言えましょう。
「椿三十郎」の鮮血シーンも非常にインパクトが在り、あの再現を期待していたのですが、リメイクでは省かれていたのが残念でした。森田監督は「室戸の体から鮮血が噴き出す有名なシーンとは違う、”ドラマとしてのラスト”を作ったけど、上手く行ったと思う。二人の友情の裏返しの部分、プライドが裏切られた瞬間を描けた。最高のシーンです。」と語っていたそうですが、黒澤版を知らなければあれはあれで悪くない演出だったとは思うのですが・・・。
絵画や小説、そして映画等、名作と称される物は何時見ても古さを感じさせないものですね。
オリジナルを知っていると、どうしてもシビアに見がちですよね。織田くんと豊川氏はたしかに声質が高くて威厳にかけた感じを受けました。
血しぶき無しはR指定対策との話もあります。時代の差でしょうか。
鮮血については自分の記事に言及してませんでした、そうですね、何かが足りないとは思ってましたけど、せっかくのカラー作品でのリメイク、椿の色だけじゃ勿体無かったですね、あるいはレイティングを気にしてたのかもしれませんが、残念ですね。
私もラストの対決はガックリきました。
あれは、元の脚本に書かれてある通り「勝負は一瞬で決ま」らなければなりません。
何故なら、三十郎は、室戸がひょっとしたら自分より強いのでは…と思ってます。刀を合わせたら、負けるかも知れない―と思ってます(黒澤が自作について語ってる文章の中で、三船が、殺陣師の考案した殺陣に「これでは負けちゃう、負けちゃう」と何度もダメ出ししたと書かれてます)。で、室戸に勝つ為には、相手より一瞬早く刀を抜き、胴を抉るあの逆手居合い切りしかなかったというわけです。
これによって、室戸が相当の使い手である事が分かり、三十郎もそれ以上に凄い侍である事が強調されるわけです。
新作では、室戸が強いのかどうか分かりませんし、なんともスッキリしない勝ち方です。とても「お見事!」と声かけたくなる勝負ではありませんね。
何より、今の映画作家たちには、黒澤を乗り越えるスケールの大きな映画をこそ作って欲しいと思います。それが黒澤の願いでもあったはずですが、本作を見る限り、“黒澤の遺産を食い潰している”だけのようです。日本映画の先行きが案じられてなりません。
椿三十郎、まだみてないです。もちろん、黒沢版はみてますが。しかし、最後のど迫力の鮮血シーンがないとは・・
でも、これはありますよね。
「あなた、お名前は?」「つ、椿、三十郎。もうすぐ四十郎だが」「おほほ、面白いお方」
これがないとおもしろくないですよ。
用心棒でもありましたね。
「だんな、お名前は?」「く、桑畑三十郎。もうすぐ四十郎だが」「あっはっは。面白いだんなだ」
昨年は邦画の興行収入が洋画のそれを逆転したというのが、かなり報じられていました。「ハリウッド映画のマンネリ化」等様々な要因が在りましょうが、若手監督の台頭というのも在るのでしょうね。唯、個人的には軽妙洒脱な作品が増えた一方で、(マヌケ様も御指摘の)念入りに作り込まれた大作が若手監督の中には余り見られない様な気がして、一寸不安を感じる所です。御多分に漏れず映画界も、費用対効果が昔以上に求められる様になり、作り手が念入りに作り込みたくても叶わないという環境の変化も在るのでしょうが。
森田芳光監督が「家族ゲーム」を撮り上げた際、あの食事シーンの大胆な構図に「これは凄い才能が現れた!」と期待したものですが、とんねるず主演の「そろばんずく」を撮った辺りから迷走し始め、すっかり並みの監督になってしまったのが個人的には残念です。
「織田裕二の三十郎じゃあ、三船の三十郎に到底及ぶ筈も無い。かなりの駄作になるに決まっている。」試写前の世評は大方そういった感じだったと思います。ところが実際に出来上がった作品を見ると、「意外と良かった。」という声が評論家筋らは多く上がっていましたね。そもそも「椿三十郎」という物語自体が面白いし、それに黒澤版とは異なってコミカルな部分をより押し出したというのが評価を得た理由ではないかと捉えています。
記事でも触れました様に、黒澤版を知らないでこの作品を見たら、それなりに面白い作品という評価になるでしょうね。織田氏もかなり頑張って演技していたと思いますし。唯、三船氏の存在感と比べてしまうとねえ・・・。
「もう直ぐ四十郎だが。」も「岡目八目、菊井の方こそ危ない。」もきちんと台詞として在ります。台詞回しは、黒澤版をかなり忠実に再現している気がしました。