**************************************************************
土手下に転がされていた男性の遺体。暴行の痕が残る体には、メッセージが残されていた。「目には目を」。
何と男の息子は、3年前に起きた集団レイプ事件の加害者だった。次々現れる容疑者、そして新たな殺人。罪を償うべきは、貴方かも知れない。
**************************************************************
25年前、「児童虐待等の家庭的な問題から、児童養護施設で育った3人の主人公が、弁護士、警察官、看護師となって再会し、其れ其れが過去のトラウマに悩まされ、苦しみ乍ら、徐々に助け合い乍ら、生きて行こうとする。」というミステリー「永遠の仔」がベスト・セラーとなった作家・天童荒太氏。今回、彼の新作「ジェンダー・クライム」を読んだ。
**************************************************************
ほぼ二十五年前―子どもの頃に虐待を受けた三人の男女を中心に据えた物語を発表した。
虐待だけでなく、いまでいう様ざまなハラスメントを受けていた人物が複数登場する、虚構のミステリー小説ではあったが―できるだけ現実に即した、身体だけでなく、精神的にも人々を苦しめつづける被害を取り上げるように努めた。
執筆の過程で、いわゆる日の当たる側からは見えていなかった多くの虐待やハラスメントの、起きた<当時の被害>はもちろん、起きた後に続く<その後の被害>も、同様に深刻である事実を知ると同時に―そうした被害を生む土壌というのか、文化的背景が、<当時の被害>にも<その後の被害>にも、存在していることに気づかされた。
**************************************************************
「ジェンダー・クライム」の巻末で、天童氏が“謝辞”として記した文章だ。彼が指摘する<その後の被害>には、“性差別”が大きく影響している物が少なく無く、「ジェンダー・クライム」では其れがテーマとなっている。
「女性をスチュワーデスと呼ぶのは、性差別だ。男女共に、フライト・アテンダントと呼ぶべきで在る!」等々、「“性差別”というのを錦の御旗として、特定の呼称が槍玉に挙げられ、従来の呼称が“封じ込められる風潮”が幅を利かす。」様になって久しい。余りにも極端で、“言葉狩り”としか思えないケースにはウンザリした思いしか無いけれど、“主人”という呼称を始めとする、此の作品で指摘されている問題点には、「確かに、そういう事も在るなあ。」と頷けたりした。
全体としては、今一感が在る。「此の設定は、少し無理が在るなあ。」と感じてしまう所が、幾つか見受けられるからだ。「警部補の志波倫吏(しば りんり)が、殺害された男性の遺体に付いて、“普通では考えない指摘”をし、其の事で彼の“体内”から“メッセージ”が見付かる。」なんぞは最たる例で、「何で志波は、そんな指摘をしたのか?」という点が、どうしても納得出来ない。又、其のメッセージを“犯人”が残した理由に付いても、「意味が、良く判らないなあ。」と思ってしまったし。
或る加害者の“心変わり”は余りに極端な感じがするし、「物語の上で“キーになりそうな人物”が、そんなに大きな意味合いを持たない儘、殺されてしまう。」のも合わせて、“消化不良”な感じを増させる。
読む前の期待値が高かっただけに、今一感が大きなマイナスとなってしまった。総合評価は、星3つとする。