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堀川次郎(ほりかわ じろう)は、高校2年の図書委員。利用者の殆ど居ない放課後の図書室で、同じく図書委員の松倉詩門(まつくら しもん)と当番を務めている。背が高く、顔も良い松倉は、目立つ存在で、快活でよく笑う一方、程良く皮肉屋な良い奴だ。
そんな或る日、図書委員を引退した先輩女子・浦上麻里(うらがみ まり)が訪ねて来た。亡くなった祖父が遺した開かずの金庫、其の鍵の番号を探り当てて欲しいというのだが・・・。
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年間ミステリー・ランキングの常連と言っても良い米澤穂信氏。今回読んだ彼の作品は「本と鍵の季節」というタイトルで、高校2年生の男子が主人公。“シャーロック・ホームズとジョン・H・ワトスン的組み合わせ”、即ち“探偵と助手という組み合わせ”は、ミステリーでは定番となっており、「色々と情報を収集し、“結果として”探偵に謎を解くヒントを与える役回りの助手に対して、冷静に状況を分析し、スパッと謎を解く役回りが探偵。」というのが普通。でも、今回の堀川と松倉は、共に探偵役という役回りなのが珍しい。(強いて言えば、堀川の方が“探偵色”が濃いけれど。)
図書委員を務める2人が探偵役という事で、“本”を題材にした作品が中心。6つの短編小説の内、4つが該当する。「913」という作品もそんな1つだが、後味は非常に悪いものの、“謎解き”という点では一番面白かった。(一部ネタバレになってしまうが、“本の分類記号”という物に着眼したのは素晴らしい。)
堀川は松倉の事を“良い奴”としているが、他人の感情に鈍感な面が見受けられ、好ましい印象は受けない。「彼の過去に、大きな原因が在った。」事が、後になって判るのだけれども。
不勉強なのは認めるが、「フェルミ推定」等、意味が判らない用語が幾つか使われ、そして全く其の説明がされていない不親切さも気になった。必ずしも一般化していない用語に関しては、さらっとでも説明は必要だと思う。
全体的に言えば、凡庸な内容。“普通の作家”の作品ならばもっと高い評価をして良いのかも知れないが、“力量を認めている作家”なので、此の程度の内容に、高い評価を与えるのは失礼な気がする。従って、総合評価は星3つ。