*********************************
不祥事で弁護士資格を剥奪された上水流涼子(かみづる りょうこ)は、IQ140の貴山伸彦(たかやま のぶひこ)をアシスタントに、探偵エージェンシーを運営。
「未来が見える。」という人物に経営判断を委ねる2代目社長、賭け将棋で必勝を期すヤクザ・・・。
明晰な頭脳と美貌を武器に、怪人物絡みの「在り得ない」依頼を解決に導くのだが。
*********************************
柚月裕子さんの小説「合理的にあり得ない 上水流涼子の解明」は、「『殺し』と『傷害』以外の依頼は引き受ける。」というポリシーの元弁護士・上水流涼子が、東大卒の超天才・貴山伸彦のアシストを受け、事件を解決して行くというストーリーで、5つの短編小説から構成されている。
柚月さんと言えば、第7回(2008年)「このミステリーがすごい!」大賞を受賞した「臨床真理」で文壇デビューを果たし、2016年には「孤狼の血」で第154回(2015年下半期)直木賞を受賞。先月読了した「盤上の向日葵」(総合評価:星4.5個)もそうだが、「作品のテーマとなる事柄に付いて、徹底的に資料を集め、自分の血肉とした上で書いている。」事が良く判り、一気に読ませる作品が多い。今回の作品も「確率」や「将棋」、「野球賭博」等、「良く調べてるなあ。」と感心させられた。
涼子と貴山の“過去”が明らかとなる「心情的にあり得ない」も面白かったが、トリック的に良かったのは「確率的にあり得ない」という作品。明かされてみればそんなに凄いトリックでは無いのだけれど、こういう発想が意外と浮かばなそう。先入観が外れた際、人は結構呆気無く騙されてしまったりするのだ。
作品としては面白いけれど、全体的に言えば「長篇小説の方が、柚月さんはより魅力を出せる。」という感じがした。「孤狼の血」や「盤上の向日葵」と比べると、“深み”の点で物足りなかったから。
総合評価は、星3つとする。