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杉村三郎(すぎむら さぶろう)35歳、妻子持ちのサラリーマン。妻・菜穂子(なほこ)の父親・今多嘉親(いまだ よしちか)は大財閥「今多コンツェルン」会長で、三郎は会長室直属のグループ広報室で記者兼編集者として働いている。既に他界した妻の実母は嘉親の正妻では無く、三郎も後継者として婿入りした訳では無いが、「逆玉の輿」で在る事に変わりは無かった。
或る日三郎は、義父から妙な依頼を受ける。「嘉親の個人運転手を長年務めて来た梶田信夫(かじた のぶお)が自転車に轢き逃げされて命を落とし、残された2人の娘が父親の想い出を本にしたがっているので、編集者として相談に乗ってやって欲しい。」というのだ。姉妹に会うと、妹の梨子(りこ)は「本を出す事によって、犯人を見付ける切っ掛けにしたい。」と意気込んでいるが、結婚を間近に控えて父を失った姉の聡美(さとみ)は、「そう上手く行く筈が無い。」と出版に反対しており、結婚の延期も考えている事が判る。
ところが、聡美が反対する真の理由は別に在った。彼女は、妹には内緒という条件で、三郎に真の反対理由を打ち明けた。運転手になる前の父は職を転々とし、良く無い仲間とも付き合いが在ったらしい。玩具会社に就職し、漸く生活が安定した、聡美が4歳の時、彼女は「父に恨みが在る。」という人物に“誘拐”され、怖い思いを味わった。其の後、両親は玩具会社を辞め、縁在って今多の運転手として雇われる迄、再び不安定な暮らしを余儀無くされた。そんな父の人生を、梨子に知られたくないと言うのだ。
更に聡美は、父の過去の悪い縁が今も切れておらず、「彼は偶然に起こった轢き逃げなんかじゃなくて、父は狙われていた。其れで殺されたんじゃないかと思うんです。」と訴えるのだった。三郎は、姉妹のそんな相反する思いに突き動かされる様に、梶田の人生を辿り直し始めるが・・・。
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宮部みゆきさんの小説「誰か Somebody」。所謂「杉村三郎シリーズ」の第一弾で、先達て読了した「ペテロの葬列」は第三弾に当たる。詰まり、最新刊(昨年12月に刊行。)を最初に読み、シリーズの最初の作品を次に読んだ形になる。小市民と言って良い三郎が、御金持ちの御嬢さんで在る菜穂子と結婚した事で、「何とも言えない不安感」や「居心地の悪さ」を屡々感じているのだが、「ペテロの葬列」を先に読んでいるだけに、其の不安感等を“同情的”に感じてしまう。
「謎解き」という面では、非常に物足りない。謎解きの要素が皆無とは言わないが、自分にとっては皆無に等しく感じたので。ストーリー的にも先の展開が読めたし、「ペテロの葬列」の評価が高かっただけにガッカリさせられた。
そういう“質”の人間が世の中に少なからず居るのは事実だし、男女間の問題は当事者間で決着が付けば、第三者がどうこう言うべき事では無いのだけれど、最後に明らかとなる“或る人物の質”は個人的に凄く不快。「ペテロの葬列」もそうだったが、宮部さんは杉村三郎シリーズで、「人間が持つ悪しき部分」を描きたかったのだろう。
総合評価は、星2つ。