「ホラー小説」という括りで言えば、幼少時に読んだ「雨月物語」の怖さは半端じゃなかった。江戸時代後期に上田秋成が著した同作品を、子供向けに判り易い言葉に置き換えたヴァージョンを読んだのだが、「菊花の約」や「吉備津の釜」等の話を思い出して夜中にトイレに行けなくなり、寝小便をしてしまった事も在る程。即座に恐怖心が生じるというよりも、時が経過する程にじわじわと恐怖心が増すというタイプの作品だ。
パトリック・ラフカディオ・ハーン氏こと小泉八雲が著した「怪談」は、国語の教科書等にも取り上げられており、日本人の多くが知る作品だと思う。其れ程迄に有名な作品を柳広司氏が換骨奪胎したのが、小説「怪談」で在る。「雪おんな」、「ろくろ首」、「むじな」、「食人鬼」、「鏡と鐘」、そして「耳なし芳一」という6つの短編小説で構成されており、此れ等のタイトルは八雲版「怪談」から其の儘(乃至は、略其の儘)借用されているが、ストーリーは勿論全く別物。
柳版「怪談」を読んで気付いたのは、「八雲版『怪談』を良く知っている様で、実際には殆ど知らなかった。」という事。今回の6作品の中で、読んだ記憶が在るのは「雪おんな」と「耳なし芳一」だけ。「ろくろ首」及び「むじな」は、「タイトルに覚えが在る様な・・・無い様な・・・。」という感じで、「食人鬼」及び「鏡と鐘」に到っては全く知らなかったので。
八雲版「怪談」でハッキリと記憶している「雪おんな」と「耳なし芳一」に関して言えば、其の世界観を柳氏は上手く生かしている。「雪おんな」に登場する“謎の女”の正体なんぞは、八雲版を読んでいれば一層イメージが膨らむだろうし。
唯、「謎解き」の観点から言えば、目新しさを感じなかったのは事実。特に「鏡と鐘」に関しては、別の小説で目にした様な結末だったし。
総合評価は星3つ。