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会社を潰すのはヘッドハンターか!?
父・鹿子隆造(かのこ りゅうぞう)が創業したアウトドア用品メーカー「フォーン」に勤める小穂(さほ)は、創業者一族という事も在り、若くして本部長、取締役となった。
然し、父がヘッドハンターを介して招聘した専務の大槻(おおつき)と意見が合わず、取締役会での評決を機に、会社を追い出されてしまう。そんな小穂を拾ったのが、奇しくもヘッドハンティング会社の経営者の並木(なみき)だった。
新米ヘッドハンターとして新たな一歩を踏み出した小穂は、プロ経営者等と接触し、彼等に次の就職先を斡旋する仕事の中で「経営とは何か?」、「仕事とは何か?」、そして「人情の機微とは?」等を学んで行く。
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雫井脩介氏の小説「引き抜き屋」は、取締役として働いていた創業者の娘が会社を追われ、何の知識も無かったヘッドハンティングの世界に引き込まれ、経営の何たるかを学び、そして人として成長して行く姿を描いた作品。2巻で約750頁という大長編小説だ。
年間ミステリー・ランキングの常連という事も在り、「雫井作品=ミステリー」のイメージが強いが、恋愛小説や家族小説等も手掛けている。1つの分野に留まらず、自身の“守備範囲”を積極的に広げて行こうとする意欲は高く評価しているが、今回の「引き抜き屋」では新たな分野、即ち経済小説の分野に進出。
知っている様で、良くは知らないヘッドハンティングの世界。引き抜く側と引き抜かれる側の駆け引きを通し、経営の何たるかが読み手にも伝わって来る。作品を書くに当たり、相当に下調べをした事が感じられる意欲作。
主人公の小穂を含め、登場人物達のキャラクターが確りと確立されているし、ストーリー自体も面白い(望む様な方向に必ずしも進まないのも、現実的と言えば現実的。一番印象に残ったのは、「引き抜き屋の苦心」という章。)。大長編では在るけれど、一気に読みえ終えてまった。
唯、残念な点も在る。小穂に対して強いライヴァル心を持つ細川瑞季(ほそかわ みずき)は非常に面白いキャラクターと思うが、途中から影が薄くなってしまったのは、何とも勿体無い気が。
そして、何よりも残念なのは、色んな意味で“池井戸潤作品の二番煎じ”の様に感じられてしまう事。「半沢直樹シリーズ」と言うよりも、同じ女性が主人公という意味で「花咲舞シリーズ」と似た匂いを感じた。
とは言え、面白い作品なのは確か。総合評価は、星4つとする。