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主の腕に惚れた大物俳優や政財界の名士が通い詰めた伝説の床屋。或る事情から其の店に最初で最後の予約を入れた僕と店主との特別な時間が始まる。 「海の見える理髪店」より
意識を押し付ける画家の母から、必死に逃れて16年。理由在って、懐かしい町に帰った私と母との思いも寄らない再会。 「いつか来た道」より
仕事許りの夫と口煩い義母に反発。子連れで実家に帰った祥子(しょうこ)の下に、其の晩から不思議なメールが届き始める。 「遠くから来た手紙」より
親の離婚で母の実家に連れられて来た茜(あかね)は、家出をして海を目指す。 「空は今日もスカイ」より
父の形見を修理する為に足を運んだ時計屋で、忘れていた父との思い出の断片が次々に蘇る。 「時のない時計」より
数年前、中学生の娘が急逝。悲嘆に暮れる日々を過ごして来た夫婦が娘に代わり、成人式に替え玉出席し様と奮闘する。 「成人式」より
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第155回(2016年上半期)直木賞を受賞した「海の見える理髪店」(著者:荻原浩氏)は、上記した6つの短編小説から構成されている。「空は今日もスカイ」以外は、「“過ぎ去った時”を振り返る。」という形式。「『海の見える理髪店』は、腕利きの理髪店主が自身の半生と世の中の出来事を客に語る形。」、「『いつか来た道』は母と不仲になった娘が、16年振りに実家を訪れ、母と触れた事で過去を思い出して行く形。」、「『遠くから来た手紙』は、夫及び義母にウンザリし、実家に戻った女性が、若かりし頃に夫と遣り取りしていた手紙等を見付けた事で、当時を思い出して行く形。」、「『時のない時計』は、父の形見で在る時計を修理に持って行った時計屋で、父との思い出を振り返り、父の“別の顔”を知る形。」、そして「『成人式』は、若くして亡くなった娘の代わりに、成人式に替え玉出席し様とする夫婦が、娘の思い出を振り返って行く形。」でだ。
「空は今日もスカイ」には魅了される物が全く無かったけれど、其れ以外は心にグッと来る物が在った。特に「海の見える理髪店」と「遠くから来た手紙」(SFっぽいテースト。)が良い。何とも言えない懐かしさとほろ苦さを感じるから。
情景がリアルに思い浮かび、登場人物達の心の襞が手に取る様に伝わって来る。実に高い筆致力。直木賞受賞も、納得の作品で在る。
総合評価は、星4つとする。