ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「顔のない敵」

2007年01月25日 | 書籍関連
一昨日の記事「『新八犬伝』、遂に復刊!」を書く上でネット検索を行なっていた所、「新八犬伝」のOP曲を始めとした懐かしい連続人形劇の曲を試聴出来るサイトに出くわした。「仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌」や今でも良く口ずさんでしまう「夕焼けの空」、そして破壊王子様も御好きな「真田十勇士の歌」(”デカ頭”こと村田英雄大先生が、「風よ吹け雲よ飛べ 雨も降れ花も散れ 打てば響くぞ 御主と拙者 星が結んだ同志の誓いに♪」と朗々とした声で歌い上げる名曲!)等、堪らないライン・アップ。又、その流れで大好きだった赤いシリーズの曲が試聴出来るサイトにも。本当に懐かしい限りだ。

閑話休題。昨年度の「本格ミステリ・ベスト10」で2位に選ばれた「顔のない敵」を読破。著者の石持浅海氏の作品を読んだのは「扉は閉ざされたまま」に続いて2作品目だが、今回の作品は7つの短編から成っている。異色なのはこの7編の内、6編が対人地雷を扱ったミステリーという事。その事に付いて著者は、次の様に語っている。

この本には、対人地雷に関する様々なエピソードが、推理小説の形で書かれています。此処に収録されている物語は全てフィクションですが、対人地雷の存在はフィクションでは在りません。どの様な言葉を使って表現しようとしても、幾ら文字を使って訴えても、無慈悲な程冷たい現実として、其処に在るだけです。それでも、フィクションが地雷に対して出来る事は、或いはフィクションでなければ出来ない事は、間違い無く在ります。私はその道を選びました。

タイトルとなった「顔のない敵」とは対人地雷を指している。”誰が埋めたか判らない”地雷によって身内を失ったり、自らの肉体を欠損させられた者達の、憎むべき対象を厳然と特定出来ない憤りを、著者はこの言葉に置き換えたのだ。

*****************************
「顔のない敵」

1993年の夏、カンボジアのバッタンバン州で地雷除去NGOのスタッフ・坂田洋は、同僚のアネット・マクヒューと対人地雷の除去作業を続けていた。

そこに突然爆発音が響き渡る。現場に駆け付けた坂田達が目にしたのは、頭部を半分吹き飛ばされた無残な死体。それは地元選出の国会議員の息子で在り、祖国復興に熱い思いを抱くチュオン・トックの変わり果てた姿だった。

何故チュオンは、地雷除去の済んでいない立ち入り禁止区域に足を踏み入れたのか?そして、これは純然たる事故なのか?
*****************************

全7編、謎解きという面では物足りなさを感じなくは無い。又、”犯人”が結果的に”法的な”裁きを受けない結末が幾つか在るのも、人によってはモヤモヤ感を覚えるとは思う。しかし、地雷という物に対して漠然たる情報は持っていても、その詳細を知っている人は自分も含めてそれ程居ないと思われる状況で、対人地雷を取り上げた小説というのは意義深いと言える。

この本によると対人地雷は現在、世界中に1億個以上が埋められたままとなっており、確認されただけでも年間に2万8千人以上もの人達が知らずに踏んでしまって亡くなったり、手足を吹き飛ばされたりしているのだとか。そして、除去される以上のスピードで、又何処かで新しい地雷が埋められているとも。

1997年にオタワで、『対人地雷の使用、貯蔵、生産及び移譲の禁止並びに廃棄に関する条約(対人地雷全面禁止条約)』が採択されるも、地雷を多数保有するアメリカロシア中国といった軍事大国を含め、約40ヶ国が締約していない。、「地雷処理の際に使用される金属探知器が、ボスニア、特にサラエボ周辺では土壌に鉄分を多く含有(鉄の鉱山が在る。)している為に、使えない所が多い。」、「対人地雷を製造しているメーカーが、同時に対人地雷を処理する機械を製造しているケースが在り、二度利益を”掬い取る”という意味からダブル・ディッピングと呼ばれている。」等、再認識させられたり新たに知ったりする情報も少なくない。

対人地雷は、殺す兵器では無い。死亡者も数多く出ているが、基本的には殺さずに大怪我をさせる事が目的だ。敵の兵士を負傷させ、その兵士の運搬や治療に別の戦力を割かせる。一人の負傷者を後方に送ろうと思えば、最低2名の兵士が担架で運搬しなければならない。それで合計3名の敵兵力を削減出来る。それと同時に、被害者がもがき苦しむ姿を他の兵士に見せ付ける事で、敵の兵士全体に恐怖心を植え付けられる。単純に踏んだ人間を殺すよりも、遥かに有効な攻撃方法とも言える。対人地雷とは、斯くも陰湿な兵器なのだ。という記述も印象に残った。

上記した様に、ミステリー作品としての自分の評価は低く、星3つという所。しかし対人地雷という物の存在を脳裏に焼き付けてくれたという意味で、総合評価は星3.5個としたい。

コメント (6)    この記事についてブログを書く
« 麻雀は身体に悪い!? | トップ | 30年前の惨事 »

6 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
学生時代姉妹校から来たアメリカ人講師によるアメリカ史を受講しましたが内容アメリカの暴力史で武器の発達がテーマでした (マヌケ)
2007-01-25 10:20:29
バタフライという悪魔の落し物は空からばら撒かれます。 地中に埋められるのではなく爆発物とは思えないような造形で、子供が見ればおもちゃとも思ってしまうような形をしたものです。 人の好奇心をそそり、だれかがそれを拾ってしまうと中に入っているパチンコ玉がころがって通電し爆発します。 子供が不思議だなあ、なんだろうと思って顔の近くにもってきたところでドカンといったらどうなるでしょう。 停戦間際にイスラエルがレバノンでばら撒いたクラスターも親爆弾から複数の子爆弾が飛び散って地上に落下しますが、不発となったものを知らずに刺激すると爆発してしまいます。 直接人も殺しますが農作業ができなくなったり道路を通行できなくしたり生活や復興作業を妨害するものともなります。 将校がサーベルを抜いたら銃で相対することは禁じられ剣には剣で向かわねばならないという騎士道精神がまだ生きていた頃、潜水艦を発明し売り込みに来た科学者をオーストリア国王がこんな卑怯なものを許せないと怒りギロチンにかけたという逸話があります。 卑怯な武器、汚い武器、残虐な武器???クリーンな武器だという意味で核兵器のことをニュークリアボムといいます。 こんな酷いものを考えて製造して販売する人間は人間の皮をかぶった悪魔ですね。 それから当然、使う人も。 かなり前から小学校の児童が中心になってバザーの売り上げからカンボジアで地雷撤去作業を応援するNGOに寄付をする活動をしています。 体育館で活動を記録したスライドも上映されます。 たくさんの義足を見て驚くのですが、地雷は兵士よりもはるかに多くの一般人を傷つけています。 中国製、ロシア製、アメリカ製です。  
返信する
>マヌケ様 (giants-55)
2007-01-25 20:22:37
書き込み有難うございました。

地雷に付いてはそれなりに理解しているつもりでしたが、この作品によって知らされる事が幾つか在りました。戦争というのが人を如何に多く殺害するかが評価される面を持ち得ている為、それに用いられる兵器がどの様なもので在れ、「卑怯だ。」、「否、真っ当だ。」とスパッと二分化出来ない様に思います。

唯そうは言っても、世界で唯一の被爆国に生まれた自分からすれば、どんな主張をしようとも無辜の民を一瞬にして大量殺害した原子爆弾というものを受け入れる事は出来ないし、一般市民をも巻き込み、且つそれ等が除去されない限り永遠に被害を出し続ける可能性の在る地雷等も肯定し難いですね。

この作品の中では、「埋設して一定期間が過ぎると、爆発する機能が失われる新型地雷の開発」に付いて触れられています。不勉強な為、実際にそういった地雷が開発済みなのかどうかは判らないのですが、地雷が必要悪と言うので在れば、せめてこういった地雷を使って貰いたいです。
返信する
是非読みたいと思います (マヌケ)
2007-01-25 23:18:23
興味のわく著書を毎回紹介していただきありがとうございます。 今、ツタヤに行ってみたのですが、「アイルランドの薔薇」と「月の扉」しか置いてありませんでした。 ランキングの上位に入ったことから売れてしまったみたいです。売り切れとなるとなおさら読みたくて気になります。 仕方なく月刊PLAYBOYがノラ・ジョーンズを特集していたので買って帰りました。  
返信する
>マヌケ様 (giants-55)
2007-01-25 23:27:09
ミステリー・ランキングに入ると、どうしても当該する作品は強烈に売れ出すのが毎年の事。恐らく図書館でも予約待ちがかなり在ると思われます。一日も早く読む事が出来ると良いですね。
返信する
ありがとうございました (マヌケ)
2007-02-06 20:05:50
ようやく手に入れることができ、2日で読み上げました。自衛隊員が隊のことを「会社」と呼ぶことやNGOの活動、中国式の地雷のことなどなど知らない世界の新しい知識を得ることができました。 ストーリーに関しましては殺人の動機としましては恋人の死からくる復讐心は理解できるものの、それ以外のストーリーにつきましては若干殺意が起こるには少し弱いのではないかなと思うものもありました。 道でつまずいて倒れたことにより地雷に触れ両手を失い失明までしてしまったアフリカの子供のことを思い出したのですが、アメリカや中国、ロシアなどの大国が一日も早く対人地雷禁止条約に批准することを願います。
返信する
>マヌケ様 (giants-55)
2007-02-06 23:23:39
書き込み有難うございました。

軍事関係の情報には極めて疎いので、この作品から自分も様々な情報を得る事が出来ました。唯、「ミステリー作品としての自分の評価は低く、星3つ。」とした様に、同機面等でストーリー的には自分も”弱さ”を感じてしまいました。

人間がエゴの塊で在る以上、争いという物が無くなる事は無いだろうし、必然的に武器が根絶される事も残念ながら無いでしょうね。でも武器が根絶されないにせよ、この作品に登場していた「埋設されてから数年経つと、自然と爆発機能が消滅してしまう地雷。」の様に、少なくとも戦争が終わった後に一般人が被害を被らない様な武器に移り変わって欲しいものです。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。