文学賞を受賞した作品でも、実際に読んでみると「此の程度の内容で、受賞出来ちゃうんだ・・・。」と落胆させられる物が、結構在ったりする。第1回(2002年)「『このミステリーがすごい!』大賞」で銀賞及び読者賞を受賞した小説「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」もそんな1つで、自分の総合評価は「星2つ」と非常に低かった。以降、其の著者の新作を書店で目にする機会が何度か在ったけれど、読む事無い儘、今に到っていた。
そんな彼が、第153回(2015年上半期)直木賞を受賞。選考委員全員が其の受賞作を推し、ネット上の評価も概して高い。「『逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~』を読了してから5年が経ち、彼も相当に腕を上げたんだなあ。」と思い、当該作を読む事に。受賞作のタイトルは「流」で、著者の名前は東山彰良氏だ。
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1975年、台北。偉大なる総統の死の直後、愛すべき祖父・葉尊麟(イエ ヅゥン リン)は、何者かに殺された。内戦で敗れ、追われる様に台湾に渡った不死身の祖父。何故?誰が?
無軌道に生きる17歳の私・葉秋生(イエ チョウ シェン)には、未だ其の意味は判らなかった。
台湾から日本、そして全ての答えが待つ大陸へ。歴史に刻まれた、一家の流浪と決断の軌跡。
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著者の東山氏は1968年に台湾で生まれ、5歳迄台北で過ごした後、9歳の時に日本に移ったそうだ。主人公の秋生は1975年の時点で17歳という設定なので、当時7歳だった東山氏がモデルという訳では無いだろう。東山氏は年齢的に自分(giants-55)とそんなに離れていない事も在り、1975年以降の台湾や日本の世相描写には、懐かしさを感じる点が多い。
で、肝心のストーリーだが、正直な所、自分にはぴんと来なかった。彼のデビュー作「逃亡作法 ~TURD ON THE RUN~」に低評価を下した理由に「比喩の多用が鼻に付く。」、「ストーリー展開がまどろっこしい。」、「読んでいて時々、登場人物やストーリーを見失ってしまう。」というのを挙げたが、「流」でも其の全てが当て嵌まる。
「3代に亘る一家の歴史」という壮大なテーマを描きたかったのだろうけれど、余りにも無意味と思える描写が多過ぎで、読んでいて疲れてしまう。“霊的描写”を入れたのも、必要性が感じられなかったし。
「秋生と或る人物との関係性」や「尊麟を殺害した犯人の正体」なんぞは、1980年代に流行った“大映ドラマ”に良く見受けられた設定。「直木賞の選考委員全員が、『流』を受賞作に推した。」というのが、不思議でならない。
最後の部分が、大好きな映画「スタンド・バイ・ミー」の最後と似たテーストだったのは良かったけれど、其れ以外は・・・。
総合評価は、星3つとする。
もう38年も前になってしまいますが、アメリカで制作されたドラマ「ルーツ」(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%84_(%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%89%E3%83%A9%E3%83%9E))が、日本でも大ブームを巻き起こしました。「西アフリカのガンビアで生まれた黒人少年クンタ・キンテを始祖とし、原作者アレックス・ヘイリー氏迄に到る一族の歴史を描いた作品で、自分も録画を含めて何度も見返した作品です。
又、日本では一定間隔で「自身の家系を辿るブーム」というのが起こりますし、日本人は特に“血脈”という物に惹かれる民族なのかもしれません。
だからこそ、一族の歴史を追う作品というのは、日本で結構注目を集める。其の結果として隆様が書かれている様に、「家族物語や定番然り、基本が確立されているもの程、ニューウェイヴを作るのは難しい。」というのは当たっていると思います。
こういった作品の場合、他の類似作品との“差別化”が大事な訳で、其の1つとして“霊的な描写”を盛り込んだのかもしれませんが、個人的には其れが失敗の要因の1つで在った様な気がしてます。
外れが非常に多い芥川賞の一方、直木賞は概して外れが少なかったのだけれど、今回は・・・。
管理人さんがお書きになっているように、家族物語や定番然り、基本が確立されているものほど、ニューウェイブを作るのは難しいのでしょう。歴史小説という、幾多もの再編が繰り返され、尚人気のキラーコンテンツもあるわけですが。つまり、何が言いたいかというと、本記事の争点となっている作品も、業界から観て革新的な装置であったり、敢えて王道を外して描かれた有価値作品がある可能性があるという事です。
あとは、代表的な国際イベントが割拠する国際映画祭なわけですが、コンクールの担当者や閥族の好みやクセが出るのは仕方ないと思います。