「『各界で活躍する人々の父母や先祖が、如何に生き抜いて来たか?』を日本国内外や関連人物へ取材し、VTRと視聴する本人の感想で構成される番組。」の「ファミリーヒストリー」は、大好きな番組の1つ。印象深い内容が多い此の番組だが、俳優・草刈正雄氏【動画】の“ルーツ”を辿った8月14日の放送は、最も印象深い物となった。
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「草刈正雄の『ファミリーヒストリー』に寺門亜衣子アナ嗚咽、号泣 母と自分を捨てた米兵の父の姉と再会」(8月14日、デイリースポーツ)
俳優・草刈正雄(70歳)が14日、NHK総合で放送された「ファミリーヒストリー」に出演。「朝鮮戦争で死んだ。」と母から聞かされていたアメリカ兵の父が、実は生きており、2013年に83歳で癌で亡くなっていた事が明らかになった。
父の写真は「全部焼いた。」と言われ、顔も知らなかったという草刈。父は日本に駐留したアメリカ兵で、母とは福岡で出会い、出産前にアメリカに帰国。1952年9月5日に生まれた草刈は婚外子となった。
番組制作班の取材で、父「ロバート・トーラー」はノースカロライナ州出身で、日本から帰国後間も無い1953年に空軍の仕事で西ドイツに行き、ヘルガさんという女性と結婚した事等が判明した。
日本人との間に子供が出来た事は隠していた父。ドイツに渡った後、草刈の母から実家に手紙が届き、姉等は初めて、弟が敵国だった日本人との間に子供が出来た事を知る。取材に応じた父の姉、ジャニタさん(97歳)は、「私は若く、御金も無かった。(草刈)親子の無事を祈るしか無かった。」と後悔し続けて来た事を打ち明け、「(生きている中で)私だけが此の事(秘密)を知っていて、誰にも話せずに居た。(高齢になって)息子に打ち明けた。」と話した。
父の写真と共に、70年知らなかった事実を知った草刈は、「言葉が何も(出て来ない)・・・。」と涙。番組にはジャニタさんからの手紙も寄せられ、草刈は「本当に今日は幸せです。」と号泣した。
草刈はジャニタさんに会う為、急遽、7月末にノースカロライナに渡った。番組も密着。自分と母の元を去った父への複雑な思いも抱え乍らの再会となったが、ジャニタさんは笑顔で「何て素敵なの!イッツ・ミラクル!」、「私にそっくり!」と出迎え抱擁。草刈も涙を流した。
ジャニタさんの家の廊下の壁には親族の写真が飾られており、其処に草刈の写真も加わった事も紹介されると、寺門亜衣子アナウンサーは号泣。何度も手で口を覆い、嗚咽をし、涙を拭う姿が映っていた。
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7年前の記事「昔は“顔だけの俳優”だったが」で書いた様に、大昔の草刈氏は「超イケメンだけど、演技は全く駄目な俳優。」だった。でも、年を重ね、硬軟演じ分けられる俳優となった。
生まれた時から母と2人だった彼。13年前に亡くなった母からは「(貴方の父親は)日本に駐留したアメリカ兵で、名前は『ロバート・トーラ』といい、朝鮮戦争で亡くなった。」、「(父方の)祖父は郵便局で働いていた。」という話位しか聞かされておらず、「父の写真は全く無い。」、「父の名前のスペルや彼の家族に付いて、所属していた軍種等も全く判らない。」という、正に“無い無い尽くし”の状態。
番組スタッフは昨年(2022年)6月、アメリカで調査を開始。「アーカイブドットコム」(法的に閲覧可能な公的機関の個人情報が集約されたサイト。)にて、「ロバート・トーラ」という名前で検索するのだが、何しろスペルが判らないので、考えられる「12パターン」の「ロバート・トーラ」を入力すると、其の対象者は「8,827人」も存在したと言う。其の1人1人に対し、「年齢的に合いそうか?」、「兵士だったか?」、「当人の父親は、郵便局に勤務していたか?」の3点で“絞り込んで行く”という、実に気が遠くなる人海戦術。
案の定、調査は難航を極める。其処で「『ロバート・トーラ』では無く、『ロバート・トーラ“ー”』の可能性は無いか?」という事から、選択肢を広げた所、其の対象者は「183,864人」に増加。益々気が遠くなる人数だが、更に「過去に草刈氏が受けたインタヴューの記事をチェックし捲った。」所、1976年に或る雑誌のインタヴューで草刈氏が「父は、ノースカロライナ州の生まれ。」と話していたのを発見。草刈氏当人もすっかり忘れていた事実なのだろうが、「ノースカロライナ州出身」という条件も加えて「アーカイブドットコム」で検索し、該当しそうな人に対して手当たり次第に手紙やメールを送ったそうだ。
そして、去年10月、「自分の叔父ではないか?」という連絡を、番組スタッフは受け取る事に。連絡をくれたのはロバート・トーラー氏の実姉の息子、詰まり草刈氏にとっては従兄弟に当たる人物だった。文面からは、“新しい家族が見付かった事への喜び”が伝わって来る。
ロバート・トーラー氏の顔写真は草刈氏にそっくりで、其れだけでも親子関係を感じさせられたが、念の為、従兄弟と草刈氏のDNA型鑑定を行った所、97%の確率で従兄弟関係に在る事が確認され、「父親が判明。」と相成った。
番組内で何度か、MCの今田耕司氏から“今の気持ち”を問われた草刈氏。だが、彼は滂沱する許りで、言葉が殆ど出なかった。其の姿が非常に印象的だったし、又、見ている自分も涙してしまった。
草刈氏の娘でタレントの紅蘭さんが自身のインスタグラムで、此の番組に付いて触れ、「偶に(父は)『自分の父親は、どんな人だったのかな?」と私に話す事も在った。涙する日も在った。ずっと気になっていたのも、家族は感じていた。」と記しているそうだ。
今とは比べ物にならない程、片親家庭への偏見が強かった時代。加えて、“混血児”への偏見は相当な物だった事、アラ還の自分には良く判る。実際、草刈氏も「合いの子と呼ばれる等、辛い思いもした。母の苦労も、相当な物だったと思う。」という趣旨の発言をしていたし。
父に関して知っている事は皆無に等しく、そして謂れの無い偏見の中で育って来た彼だからこそ、「自分は一体、何者なのだろうか?」というアイデンティティ(自己同一性)を追い求める気持ちが強かった事だろう。70年近い“アイデンティティ捜しの旅”が漸く終えられた事に、「良かったなあ・・・。」という思いだ。