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1963年、日本列島が翌年開催の東京オリンピック準備に沸く中、群馬県前橋市では、人知れずクーデター計画が進行していた。国を正したいという使命感に燃える大学生の松島重吾(まつしま じゅうご)は、財界の重鎮・国重一郎(くにしげ いちろう)に誘われ、毒ガスの開発に踏み出す。
2013年、首相を人質に議員総辞職を求め、国会議事堂前で毒ガスを盾に、車に立て籠もった青年。タイム・リミットは12時間。捜査1課特殊班警部補・峰脇東吾(みねわき とうご)は、其の正体を探るが・・・。
時空を超えた2つの事件を繋ぐミッシング・リンクは、白骨死体と「S」。其の正体とは!?
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堂場瞬一氏の小説「Sの継承」は、2013年に群馬県で発生した異臭騒動から始まる。住民達が次々に病院に運ばれるという、地下鉄サリン事件を思い起こさせる展開。そして「毒ガスを持っている。」という犯人からの電話が入り、ストーリーは50年前の世界へと移り変わって行く。
1961年12月12日に発覚した「三無事件」は、旧日本軍の元将校達が画策したクーデター未遂事件。破壊活動防止法が初めて適用され、13人が逮捕された実在の事件だが、其の2年後にも「クーデター未遂計画が在った。」という“設定”で、「Sの継承」は描かれている。
1963年のクーデター未遂計画と、2013年に発生した異臭騒動、そして其れに続く立て籠もり事件は、一体どういう繋がりが在るのか?謎の白骨死体も加わり、どんどんストーリーの中に引き込まれて行く。だが・・・。
設定は非常に良く、ストーリー展開も素晴らしいのだが、全体の半ば辺りから“残念な展開”になって行く。“先が見えない面白さ”から、“先が見えてしまう詰まらなさ”に転じてしまうのだ。様々な面で在り来たりとなり、白骨死体の正体も含めて予定調和的。意外さと言えば、白骨死体と或る人物との関係性位か。
話の持って行き方次第では、大傑作にも成り得た小説だと思うし、其れだけに途中での“大失速”が本当に勿体無い。総合評価は、星3つとする。