ば○こう○ちの納得いかないコーナー

「世の中の不条理な出来事」に吼えるブログ。(映画及び小説の評価は、「星5つ」を最高と定義。)

「昭和の犬」

2014年04月08日 | 書籍関連

**********************************

昭和33年、滋賀県或る町で生まれた柏木イク(かしわぎ いく)。嬰児の頃より、色々な人に預けられていたイクが、両親と初めて同居をする様になったのは、風呂も便所も蛇口も無い家だった。

 

理不尽な事で割れた様に怒鳴り散らす父親、娘が犬に激しく咬まれた事を見て奇妙に笑う母親。其れでもイクは、淡々と、生きて行く。

 

軈て大学に進学する上京し、余所の家の貸間に住む様になったイクは、沢山の家族の事情を、目の当たりにして行く。

 

そして平成19年。49歳、親の介護東京と滋賀を行ったり来たりする中で、イクが、染み染みと感じた事は。

 

1人の女性の45年の歳月から拾い上げた写真の様に、昭和から平成へ日々が移ろう一寸嬉しい事、凄く哀しい事、小さな出来事のに、そっと居る

**********************************

 

第150回(2013年下半期直木賞を受賞した小説昭和の犬」。著者姫野カオルコさんは、其れに4度も自身の作品が直木賞候補に選ばれるも、悉く落選。「無冠の女王」とも呼ばれていたそうだが、5回目に候補となった「昭和の犬」にて見事受賞。

 

主人公の柏木イクは昭和33年生まれという設定で、此れは姫野さん自身と同じ。自身の半生を描いたというのでは無いのかもしれないが、“同じ時間を生きた者”としてのリアリティーを、行間から感じる。

 

昭和30年代から平成20年迄の時代を、「イク」と「犬」、そして「猫」というのを軸にして描いているのだが、独特な言い回しが余りに多く、又、其れが執拗に用いられているものだから、正直読むのがしんどい速読派の自分にしては、読了迄結構な時間が掛かったのも、偏に其れが原因。

 

全体の3分の2を読み終えた辺りから、ストーリーの中に感情移入出来る様になったのは、良くも悪くも「昭和の香り」に誘引されたからかもしれない。記されている当時の世相に懐かしさ等を感じ、又、今よりも格段と強かったで在ろう「田舎」や「無根拠な偏見」といった物に辟易とした思いを持ちつつも。

 

「肉は高いのですき焼きに、山で取って来た松茸沢山入れて量増しする。」といった記述が在る。両親や祖父母から「昔は、松茸なんて幾らでも食べられた。一寸した山に行けば沢山取れたので、高価でも何でも無かったから。」という話を何度か聞かされたが、こういうのは時代を感じる話だ。

 

今よりもずっと欧米文化に対する憧憬が強かった昭和40年代、子供達の間で人気を博した“アメリカ産”のアニメトムとジェリー」【動画】に付いても触れられている。猫のトムとのジェリーが繰り広げるドタバタ喜劇だが、当時、見ていた殆どは「小さくて、愛らしいジェリー。」を贔屓にしていたと思う。でもイクは、「ジェリーは盗み食いや失敗や悪戯を、全部トムの所為にししている。其の事でトムは、飼い主等から小っ酷く怒られたりしているのだから可哀想。ジェリーは、何と忌々しい事か。」と、一般とは違った見方をしているのが面白い。

 

此の時代を生きて来た自分にとっては、“普通に理解出来る言い回しや用語”にも、幾つか欄外注釈が付いていた。夏目漱石やら森鴎外やらの小説にも、こういった注釈が結構付いているけれど、自分が生きて来た『昭和』の時代の物事にも、こうやって注釈が付けられる時代になってるんだなあ。という感慨が。

 

ネット上の書評を見ると、「昭和の犬」に対する評価は「良いor悪い」がハッキリ分れている。「そうだろうなあ。」と、自分も思う。上記した様に独特な言い回しが多用されて事も在り、読むのにしんどさを感じる人も居るだろうから。又、昭和という時代を知らない若い世代にとっては、“伝わり難い部分”も在るに違い無い。

 

自分も積極的に「良い!」と言える作品では無いが、不思議と“心に何かが残る作品”で、総合評価は星3.5個とする。


コメント    この記事についてブログを書く
« 感覚の鈍り | トップ | 22年振りの首位決戦 »

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。