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高さ約36mの望楼付き2階建て、間口約73mに全102の客室を擁する日本初の西洋式ホテル「築地ホテル館」。明治初頭の東京に其の偉容を現した同ホテルは、僅か4年足らずで大火に遭い、灰燼に帰した。
焼け落ちたホテル跡からは、イギリス人のヘンリー・ジェームズの刺殺死体が発見される。19世紀後半に世界を旅し、歴史的報道写真を多数残したイギリス人写真家のフェリックス・ベアトが、刺殺死体の謎を追う事に。ジェームズは、何故殺害されたのか?殺害現場で目撃された「鎧兜を身に付けた男」とは、一体何者なのか?
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翔田寛氏の小説「築地ファントムホテル」は、明治維新から間も無い東京を舞台に描かれている。幕藩体制が崩壊した事で、武士達は精神的にも金銭的にも拠り所を失ってしまう。其の一方、「鎖国の時代」から「開国の時代」へと移行し事で、一気に入り込んで来た西洋文化を、一般庶民は徐々に受け容れていた。新しき世を迎えて一変する世相が、恰も目の前で繰り広げられているかの如く、詳細に描写されている。「窮乏生活に苦しむ武士達」と「新しき世の到来に浮き立っている様な一般庶民」の対比も、此の時代が持つ複雑さを再認識させる。
1人のイギリス人が殺害された背景に、巨大な陰謀が隠されていた。歴史好きの人間ならば、「そういう事か!」と唸ってしまう設定。「歴史的事実」や「実在人物」を上手く絡め、繰り広げられる作者の大胆な仮説。面白くて、一気に読破してしまった。
総合評価は、星3.5個。