「○月○日のX時X分頃、此処で△色のライトバンが通行人を撥ね、負傷させる事故が発生しました。此の事故を目撃した方は、~警察署に連絡下さい。」といった立札を此処数年、矢鱈と目にする様になった。別の理由が在るのかもしれないが、「嘗てなら積極的に名乗り出ていた事故の目撃者も、近年は『面倒な事に巻き込まれたくない。どうせ自分には無関係な事だし。』という事で、名乗り出ないケースが増えている。」のかもしれず、もしそうならば、こういう“無関心さの蔓延”というのは残念な事だ。
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思いも寄らぬ形で“憧れの王子様”の正体を知ってしまった笠原郁(かさはら いく)は、完全にぎこちない態度。そんな中、或る人気俳優のインタヴューが図書隊、そして世間を巻き込む大問題に発展。
加えて、地方の美術展で最優秀作品となった「自由」をテーマにした絵画が、検閲&没収の危機に。郁の所属する特殊部隊も警護作戦に参加する事ことになったが・・・。
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有川浩さんの人気作「図書館戦争シリーズ」。其の第3弾「図書館危機」を読了。
図書館戦争シリーズの世界観に付いては、第1弾「図書館戦争」のレヴュー乃至は此方を読んで戴ければと思うが、「青少年に悪影響を与える有害情報や、人権を侵害したり公序良俗を乱す表現を取り締まる為の法律『メディア良化法』が施行された日本。」が舞台となっている。
第2弾「図書館内乱」の最後で、「図書隊員になる切っ掛けとなった“憧れの王子様”の正体が、入隊以降何度も激しくぶつかり合って来た上官・堂上篤(どうじょう あつし)で在る事を気付いてしまい、動揺する郁だが、今回の第3弾では更なる大きな問題と直面する事に。
大反対されるのが明々白々なので、図書隊員になった事を両親にずっと隠して来た郁だったが(父親は、其の事実を既に知っていたのだけれど。)、遂に超過保護な母親に気付かれてしまうのだ。幼い頃より「自分は、母親から愛されていない。」と思い込んで来た郁に対し、一番上の兄が明かした“知られざる過去”が、彼女の心を大きく揺さぶる。
御互いに相手を好ましく思っているのに、其れを素直に表せない、実に不器用な郁と堂上。男勝りな郁が堂上に見せた愛らしさ、そして生真面目で寡黙な堂上が郁に見せた茶目っ気が何とも微笑ましく、読んでいて自然に笑ってしまった。
時の権力者にとって“不都合な事実”を、“違法な事柄”として闇に葬り去る事が可能な「メディア良化法」。「言葉狩り」としか思えない事態も描かれているが、此れ等を「単なる絵空事。」と捉える人が少なく無い様にも感じる。
一国のトップが言論封殺としか思えない事をしても、又、全体主義への回帰の一環として「特定秘密保全法案」で国民の知る権利を奪おうとしても、取り立てて大きな騒ぎにならない我が国。嘗て「一億総白痴化」なる用語が人口に膾炙したが、冒頭で紹介した話の如く、今は「自分には関係無いさ。」という「一億総無関心化」が進んでいるのではないか?
安倍晋三首相の熱狂的な支持者として知られた俳優の児玉清氏。誰を支持し様が個人の自由だけれど、「安倍首相=全知全能の神」と捉えているかの様な、度を越した礼賛振りには、正直ガッカリさせられたもの。
児玉氏と言えば「図書館戦争シリーズ」のファンとしても有名なのだそうだが、「時の権力者による言論統制」に対して問題提起している同シリーズのファンだとしたら、現政権のスタンスを、草葉の陰でどう思っているのか知りたい所だ。
総合評価は、星3つ。