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指揮権発動:法務大臣は検察庁法に基づき、検察事務に付いて検察官を指揮監督する権限を持つが、此の指揮権は、個々の事件の取調べ、又は処分に付いては、検事総長に対してのみ発動される。法務大臣が具体的事件に付いて干渉した場合に、検事総長の識見による調整が為される事を期待した物で在る。1954年4月、造船疑獄事件の捜査の際、犬養健法務大臣が与党・自由党の幹事長・佐藤栄作の逮捕を、此の指揮権発動で阻止した事件は有名。発動後、犬養法務大臣は辞職した。
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簡単に言ってしまえば“指揮権発動”は、「時の政府にとって“不都合な部分”に捜査が及ぼうとした際、法務大臣が検事総長に対し『捜査を、完全に終わらせろ!』と命令する事。」で在り、実際に発動されたのは、上記の1回だけ。でも、「指揮権発動は、時の政府にとっての“伝家の宝刀”で在り、『妙な捜査を続けると、此の刀を抜くぞ!』と指揮権発動をちらつかせる事で、其の意向を“忖度”した捜査現場を“委縮”させ続けて来た。」とも言われている。
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東京地方検察庁特別捜査部検事の芦名誠一(あしな せいいち)は、「アフガニスタンで起きた邦人殺害事件の背後に、大物政治家が居た。」との情報を得て、現地に飛んだ。合わせて、捜査1課の中原暁子(なかはら あきこ)と公安の沢木隆司(さわき りゅうじ)警部も現地入りし、捜査に協力する事に。地元警察はテロだと言うが、芦名達は被害者を狙った殺人事件だと推察し、捜査を進める。不安定なアフガニスタン情勢、アメリカの関与、政権からの圧力。指揮権が発動される前に真実を解明すべく、芦名達は持てる力を結集し、事件に挑む。
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笹本稜平氏の小説「指揮権発動」は、「カーブル市内のホテルで、ODA(政府開発援助)関係の仕事で同地に滞在していた開発コンサルタント会社の日本人社員3人が殺害され、其の為に東京地方検察庁特別捜査部検事の芦名達がカーブルに派遣された。」所から始まる。「取り調べ等、警察権の行使は、相手国の国家主権を侵害するという理由から、現地では事実上不可能。」という現実が在るにも拘らず、芦名達が派遣されたのは、官邸筋からの支持が在ったからだ。
「単なるテロ事件では無く、ODAに絡む巨大疑惑が引き起こした殺人事件ではないか?」というのが芦名達の読みだが、捜査を続ける内に日本及びアフガニスタン国内の政争が見え隠れして来る。
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山本が言ったとおり、日本のODAはまさに悪性の病巣を抱えている。だれかがそれを取り除かない限り、いずれはODAというシステムそのものが瓦解する。
途上国支援という美名に対しては、一般国民の感情としてなかなか反論はしにくい。その大義名分を隠れ蓑に、政治家が国家の富を収奪する。日本のODAがそんな装置と化しているなら、一度破壊する以外に再生の道はない。
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“外交の安倍”と称するも、実態は「次々と明らかになる疑惑追及を逃れるべく、海外に飛び回っては大枚を散蒔いているだけ。」としか思えない安倍晋三首相。“自分の財布の中の金”で在るかの様に、ODA等の形で血税を散蒔いている感が在る。
「ODAに投入される大枚は、対象国のみならず、日本の政治家等の懐に、結構な額が流れているのだろうな。」という疑念をずっと持っていたが、此の小説によってODAの仕組み(ODAの金銭面のチェックが、実質的には全く機能していない現実等。)を知り、疑念を更に深めた。
芦名達を利用しようとしていた官邸サイドが、自分達に火の粉が降り掛かりそうになると、指揮権発動をちらつかせて来る。過去に多くの疑惑が明らかとなった際、捜査過程で起きて来た事が、此の小説でも“再現”されている。絶体絶命のピンチにハラハラドキドキさせられ、どんどん読み進んでしまった。
総合評価は、星3.5個とする。