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1998年の夏休み、両親と共に海辺の別荘へ遣って来た、15歳の見崎鳴(みさき めい)。其処で出会ったのは、嘗て鳴と同じ夜見山北中学の3年3組で不可思議な「現象」を経験した青年・賢木晃也(さかき てるや)の幽霊だった。
謎めいた古い屋敷を舞台に、死の前後の記憶を失い、消えた自らの死体を捜し続けている幽霊と鳴の、奇妙な秘密の冒険が始まるのだが・・・。
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「館シリーズ」で有名な小説家・綾辻行人氏。新本格派ミステリー作家の1人として知られるが、「ホラー系ミステリー」といった範疇の作品も少なからず著している。今回読了した「Another エピソードS」も、其の範疇に入るだろう。
4年前、同氏は「Another」という作品を上梓した。其の内容に関しては3年前のレヴューを読んで戴ければと思う。「Another」の中では「夏休みのクラス合宿前、鳴が夜見山を離れ、家族で海辺の別荘へ行く。」場面が在るのだけれど、「Another シリーズS」では此の「空白の1週間余り」に鳴が関係した“或る事件”を描いている。「シリーズS」の「S」に、綾辻氏が様々な意味合いを持たせている事は、後書きで触れているのだが、此処で触れてしまうのも野暮な気がするので、触れないでおく事にする。
此の作品のポイントは、「晃也の幽霊」に尽きるだろう。晃也の幽霊に関する或る事実が明らかになった時、「其れ迄に交わされた人々の会話や情景描写に、全く違った意味合いが在った。」事が判り、「そうだったのか!」という驚きは在る。其の点では「流石、綾辻氏!」と感じたが、別の言い方をすれば「其れ以外では、凡庸な内容。」と言わざるを得ない。
期待度が高かっただけに、失望感は大きい。総合評価は、星3つ。