「初期の鉄腕アトムの指は4本だった。」というのは、知る人ぞ知る話。作者の手塚治虫氏がウォルト・ディズニー氏の作品の大ファンで、彼が生み出したキャラクター「ミッキーマウス」の指が4本で描かれていた事を真似したと言う。では、何故ミッキーマウスの指は4本で描かれたのか?其れは「当時の映像技術が未熟だった事から、アニメで指を5本にして描き、そして動かすと、見ている側には6本指に見えてしまう。」という理由からだそうだ。
元「小学二年生」の編集長で、『ドラえもん』の連載を立ち上げた1人でも在る井川浩氏が、藤子・F・不二雄氏に付いて語っている記事を読んだ。其の中に、次の記述が。
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私が藤子先生にただ一つだけ注文したことがありました。それは指の数です。
あの頃、ディズニー以来の習慣で、指が4本に描かれることが多かったんです。アニメーションで動かすためにはその方が都合良かった、なんてことも言われていました。手塚治虫先生もディズニーの信奉者だったから指を4本に描いていました。やっぱり手塚先生はお手本だから、先生がそう描くとほかの作家さんたちも同じように描くんです。
ところがあるとき、こんなことがありました。あるまんが家さんが描いた絵で、女の人が正座していたんですが、うっかり足の指が6本になっていた。それを見た小一の子どもが「どうして6本あるんだ。」と押入れにこもってしまって一日中出てこないと親から電話があったんです。子どもながらに理不尽で、そこに引っかかってしまったんでしょう。
藤本先生にそのお話をしたら、その場で「わかりました。」と返答してくださったんです。学年誌だと「片手で5」、「両手合わせて10」なんて、かんたんな算数も教えないといけませんしね(笑)。だから、順に追って見ていくと、藤本先生の絵もあるときを境に5本指に変わっていると思いますよ。
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恐らくは、1960年代から1970年代の間の逸話と思われる。「足の指が6本で描かれている事に、『どうして6本在るんだ。』と理不尽さを感じ、其れで押入れに籠もってしまった小一の子供。」というのは、可成りの繊細さを有していたのだろう。今時の子供だったら、此処迄のリアクションは取らないのではないか。
「学年誌だと『片手で5』、『両手合わせて10』なんて、簡単な算数も教えないといけないので、指を5本で描く様に頼んだ。」というのは、学年誌の編集に携わっている人間の配慮を感じさせる逸話だが、もっと感心してしまったのは次の記述。
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学年誌という雑誌は非常に編集者がシゴかれるところで、編集者はいろいろ勉強して覚えなきゃいけなかった。間違いがあったら子どもたちがそれを覚えてしまうからです。
例えば絵描きさんに戦艦大和を描いてもらうとき、船体に波がいくつあるかを見ます。速度によってできる波の数が変わってくるんです。大和の場合最速で走ると、船体にかかる波が九つになるんです。だから下手な絵描きさんのときはこちらが「波の数が足りません。」と注文していました。そこまで全部チェックするのが学年誌の編集だったんです。
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「其の船の速度によって、船体にかかる波の数をチェックする。」、そんな事迄配慮していたとは・・・。幼少時、自分も学年誌を読んでいたけれど、そんな配慮が在ったとは、当然乍ら全く考えてもいなかった。「プロの仕事」とは、こういう事を言うのだろう。
手塚マンガ、初期の藤子マンガの指の数は気にしていました。その文中のお子さんのように悩みはしなかったですが、当時は「日本のマンガは(アメリカに比べて)稚拙」と大人が分かったような顔して言っていた時代です。恥ずかしながら「そういうものか」と思っていました。
1990年以前に育った人だと明らかにその「大人のそういうセリフ」による誤解が海外旅行などで覆され、唖然とすることが多いのだと思います。30代半ばの人でも「日本製品は悪いと親に言われて育ったが、留学したら日本製品を褒められたり、向こうの製品(特に文房具)の稚拙さに呆れた」という体験があるほどだし、外国、特に欧米の人も1970年代以降に育った人はアメリカマンガより日本アニメに馴染んだ世代なので変な偏見や誤解が少ないなあと感じています。正直言ってそれ以前の人は話に成りません。さっさと帰れと思うことあります。
「MADE IN JAPAN」が「安かろう悪かろうの代名詞」だった頃より、我が国の先輩達は其れこそ汗水流して、其の悔しさを技術力のアップで晴らして行ったんですよね。
海外に出ると、「日本製品の評価が思っていた以上に高い。」のを実感させられます。日本食も多くの外国人に愛され、先程迄見ていた番組によると、「此の3年間で、日本食をメインで扱う世界の料理店は、2倍に膨れ上がった。」とか。非常に嬉しい話では在りますが、だからと言って「日本は、何処の国よりも素晴らしく、そして偉いんだ!」という似非愛国者がふんぞり返り出すのは勘弁ですけれど。