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恋人に紹介出来ない家族、会社での虐めによる対人恐怖、人間関係をリセットしたくなる衝動、弁えていた筈だった不倫、ずっと側に居ると思っていた幼馴染みとの別れ・・・今は人生の迷子になってしまったけれど、貴方の道標は、ほら、此処に。
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小説「52ヘルツのクジラたち」で、第18回(2021年)本屋大賞を受賞した町田そのこさん。今回読んだ「あなたはここにいなくとも」は、先月上梓された彼女の新作。現状に悩み、「どう生きれば良いのか?」を模索している人を主人公にした、5つの短編小説から構成されている。
以前にも書いた事だが、自分は「不倫」という行為が大嫌い。どんなに高い評価を受けていても、不倫を題材とし、其れを“前面に押し出した”作品は見たり、読んだりしたく無い程。「どんな理由が在るにせよ、“人の物”を盗るという行為は“泥棒のする事”。」というのも在るが、何よりも「自分がされて嫌な行為は、絶対に他者にすべきでは無い。」と考えが在り、不倫が大嫌いなのだ。
「あなたはここにいなくとも」には、何故か不倫をしている人が多く登場する。本来ならば読み進める気にならないのだけれど、「不倫という行為を、前面に押し出した作品では無い。」し、内容が魅力的なので、一気に読み終えてしまった。
読んでいて感じたのは、「独特な表現を好む作家だなあ。」という事。「持ち重り」、「“みちみち”と墓石が並んでいるのだ。」、「蜆目」、「幼馴染が好きなひとってのは、太古の世から“擦られすぎてる”くらい、当然のことじゃないのか!」、「てっそん(姪孫)」(「“ ”」は、其の部分を強調する意味で自分(giants-55)が付けた物で在り、本文には無い。)等々、数多の本を読み漁って来た自分でも、「こういう表現在るんだ。」と思う物だった。其の独特な表現が、文章に深みを与えているし、又、魅力的にもしている。
「おつやのよる」、「くろい穴」、そして「先を生く人」が強く印象に残った作品。特に「渋皮煮を作る工程を、主人公の女性が置かれている状況と重ね合わせて描いている『くろい穴』。」には、ぐいぐいと引き込まれて行った。こういう発想(着眼点)を持つ作家って、本当に凄い!!
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「菜摘(なつみ)も、覚えておきなさい。あなたたちは、可能性に溢れているのよ。恋も、友情も、夢も、何もかもがこれからなの。そして、どんなことだってできる。最初から諦めなければいけないことなんてない。絶望しないといけない障害なんてない。だから何ひとつ、憂うことはない。後悔しないように、それだけを忘れなければいい。もちろん、大変なことがたくさんあるでしょう。頑張ったからって成果がでないこともある。でも、どんなに辛いことや哀しいことがあったとしても、大丈夫。やっぱり憂うことはないの。だって、きっといつか、何もかもを穏やかに眺められる日が来る。ありのままを受け止めて、自分なりに頑張ったんだからいいじゃないって言える自分が、遠い未来にきっといる。私は後悔をたくさん残してしまったけど、たらればに思い悩んできたけれど、いまは、ここまで生き抜いてきた自分のことを褒めたい。あんたなりにやったじゃない、って思ってる。だから大丈夫よ。この私が、保証する。」。
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“心の弱っている人”程、読んで欲しい作品。総合評価は、星4.5個とする。