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11月初旬の或る日、渡辺(わたなべ)探偵事務所の沢崎(さわざき)の下を、望月皓一(もちづき こういち)と名乗る紳士が訪れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、「内々の事なので、決して会社や自宅へは連絡しない様に。」と言い残し、去って行った。
沢崎が調べると、女将は6月に癌で亡くなっていた。顔立ちの良く似た妹が跡を継いでいると言うが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か?
然し、当の依頼人が忽然と姿を消し、何時しか沢崎は、金融絡みの事件の渦中に。
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「2018週刊文春ミステリーベスト10【国内編】」の2位、そして「このミステリーがすごい!2019年版【国内編】」の1位を獲得した小説「それまでの明日」。著者の原尞氏は30代の頃、海外のミステリーを乱読し、特にレイモンド・チャンドラー氏の作品に大きな影響を受けたそうだ。
過去にも書いたが、自分はレイモンド・チャンドラー作品に代表される“ハードボイルド”が苦手。「さよならを言うのは、少し死ぬ事だ。」等、気取った感じ言い回しが、どうにも好きになれないのだ。
でも、「ハードボイルドが全て苦手。」という訳でも無い。“気取った言い回し感”が薄い作品だと、「大好き!」とは言わない迄も、特に抵抗無く読み進めたりする。
今回読んだ「それまでの明日」は、所謂「沢崎シリーズ」の第5弾に当たり、前作からは14年振りの昨年、上梓された物。原作品は読んだ事が無く、従って沢崎シリーズは初めて読む事に。
気取った言い回しは出て来るが、苦手なタイプのハードボイルドでは無い。後半部分に“状況を把握し辛い記述”が何ヶ所か見受けられるけれど、「全体としては、読み進め易い。」と言えよう。
“謎解き”の面で言えば、「余り深みが無いなあ。」という感じ。ミステリーとして読むならば、がっかり感が強いかも知れない。
過去の作品で“人間関係”を知っていたら、登場人物達に“愛着”を感じるのかも知れないが、個人的には個々のキャラクターに魅力を感じなかったし、又、“偶然性に頼り過ぎた設定”と感じる部分も在り、そういう意味でもミステリーとしてのめり込めなかった。
総合評価は、星3つとする。