「昨日がなければ明日もない」

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杉村探偵事務所の１０人目の依頼人は、５０代半ばの品の良い御婦人だった。一昨年結婚した２７歳の娘・佐々優美（ささ　ゆうび）が、自殺未遂をして入院してしまい、１ヶ月以上も面会が出来ない儘で、メールも繋がらないのだと言う。杉村三郎（すぎむら　さぶろう）は、陰惨な事件が起きていた事を突き止めるが・・・。「絶対零度」

杉村は近所に住む小崎（こさき）さんから、「姪の結婚式に出席して欲しい。」と頼まれる。小崎さんは妹(姪の母親)と絶縁していて欠席する為、中学２年生の娘・加奈（かな）に付き添って欲しいという訳だ。会場で杉村は、思わぬ事態に遭遇する・・・。「華燭」

 

事務所兼自宅の大家で在る竹中家の関係で、２９歳の朽田美姫（くちだ　みき）からの相談を受ける事になった。「子供の命が懸かっている。」問題だと言う。美姫は１６歳で最初の女の子・漣（さざなみ）を産み、別の男性との間に６歳の男の子・竜聖（りゅうせい）が居て、然も今は、別の“彼”と一緒に暮らしているという奔放な女性で在った・・・。「昨日がなければ明日もない」

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宮部みゆきさんの小説「昨日がなければ明日もない」は、上記３つの短編小説で構成されている。同作品は「杉村三郎シリーズ」の第５弾（正確に言えば、他作品に杉村三郎が登場する物が収録されているが。）で、自分が最初に読んだのは第３弾「ペテロの葬列」（総合評価：星４つ）。後は第１弾「誰か　Ｓｏｍｅｂｏｄｙ」（総合評価：星２つ）、そして第４弾「希望荘」（総合評価：星４つ）という変則的な順番で読了。第２弾「名もなき毒」は未読の儘だ。

 

以前にも書いたが、「宮部作品は概して、自分と“肌合い”が良く無い。」というのが在る。「無駄な記述が多く、全体的にくどくどしい。」というのが理由だけれど、「杉村三郎シリーズ」に関して言えば、好きなテースト。全体的なくどくどしさが無いというのも在るが、「淡々とした記述が貫かれている中、“人間の非常に醜悪な面”をさらっと入れ込んでいる所がとても印象的。」なのが、同シリーズを高く評価する所以。こういった作品の場合は概して、人間の非常に醜悪な面が重ねて記される事で、読むのがしんどくなるのだけれど、淡々とした記述が貫かれている為、すすっと読み進めてしまう。

 

「華燭」は別にして、他の２作品は後味の悪さが残る。特に「昨日がなければ明日もない」に登場する或る“少女”の今後に思いを馳せると、どんよりとした思いになる。

 

とは言え、読ませる作品群なのは確か。総合評価は「星４つ」とする。