1582年、織田信長の重臣・明智光秀が謀反を起こし、京都の本能寺に宿していた主君・信長を攻めて自刃に追い込んだ「本能寺の変」。最近でもガス・パッ・チョ!のCMでネタにされる等、歴史に詳しくない人にとってもこの歴史上の事件は有名な存在だろう。この余りにも有名な事件を、作家・加藤廣氏が”3人の視点”を通して著した。信長の腹心・太田牛一の目を通した「信長の棺」。信長の家臣にして、加藤氏が本能寺の変の或る意味”実行犯”と推測する豊臣秀吉の目を通した「秀吉の枷」。そして”本能寺三部作”の最後を飾るのが今回読破した「明智左馬助の恋」で、この作品は謀反人・明智光秀の家臣にして義子(光秀の長女・綸の夫。)でも在る明智左馬助の目を通して描かれている。
「一つの謎は三つの方向から追うのが良い。」この本のあとがきで著者は、3人の視点から本能寺の変を著した理由をこう記している。そして、この思考は戦時中の空襲体験から来ているとも。日本上空を、我が物顔でB-29が飛来していた第二次世界大戦末期。しかし、それ以前の日本国土防衛軍は、”それなりに”敵機と戦っていたという。空襲のサイレンが鳴り響き、敵機の轟音が近付いて来ると、代々木や戸山ヶ原、習志野辺りに配置された探照灯がさっと白線を空に投げ掛ける。一本の白線が敵機を捉えると、それを追い駆ける様にもう一本の白線が放たれ、そして三本目の白線が重なり、敵機の操縦者の顔が見える程鮮明になると、これを追い駆ける様に高射砲の弾が次々に敵機に向かって発射。やがて、ドーンという轟音と共に、敵機は紅蓮の炎と化して墜落して行く。「当たる確率は情けない程低かったが、敵機を三方向から捉えた時は、結構良く命中した。」と当時14歳だった著者は鮮明に記憶しており、そんな過去の知識や記憶が3人の視点から一つの事件を捉えるという形へと結実した訳だ。
「武士の本懐を貫いた義父・光秀と、潔く爽やかに散った男が、命を賭して生涯守り抜いた物とは・・・。『本能寺』三部作完結!真実は敗者の側に在る。」というのがこの作品惹句だが、なかなか上手く内容を表していると思う。同じ著者が同じテーマの作品を著した場合、得てして内容が薄まって行くものだが、「信長の棺」に「秀吉の枷」、そしてこの「明智左馬助の恋」と内容が薄まって行くどころか、三位一体となって面白さを増している感が在る。
「信長の経国策を律する三つの要因『絹織物の最大消費地・京への強い進出願望』、『兵農分離』、『鉄砲の積極的採用』が、実は非常に密接にリンクし合った結果の物。」、「鉄砲の本格的導入の先鞭を付けたものの、肝心の火薬の原料となる硝石が日本では入手出来ないという泣き所を抱えた信長。そして南蛮からの硝石輸入戦が、何時どの港に入港す可きかを本国に指示していた伴天連達。自称”神の平和の使徒”の彼等が日本国内での布教を広める代償として、”情報”を売り”死の商人”の手先として働いていた。」、「子宮内の胎児を腐らせて流させる為の”子腐り薬(こぐさりぐすり)”の成分は水銀。」等、興味がそそられる記述も多い。
単なる謀反人と捉えられがちな明智光秀。しかし義子の目を通して描かれた彼は、義憤に駆られて挙兵した哀れな人物という趣を強く感じてしまう。歴史はそれを見る者の立場によって、様々な捉え方が出来るという一例だろう。
総合評価は星4つ。
「一つの謎は三つの方向から追うのが良い。」この本のあとがきで著者は、3人の視点から本能寺の変を著した理由をこう記している。そして、この思考は戦時中の空襲体験から来ているとも。日本上空を、我が物顔でB-29が飛来していた第二次世界大戦末期。しかし、それ以前の日本国土防衛軍は、”それなりに”敵機と戦っていたという。空襲のサイレンが鳴り響き、敵機の轟音が近付いて来ると、代々木や戸山ヶ原、習志野辺りに配置された探照灯がさっと白線を空に投げ掛ける。一本の白線が敵機を捉えると、それを追い駆ける様にもう一本の白線が放たれ、そして三本目の白線が重なり、敵機の操縦者の顔が見える程鮮明になると、これを追い駆ける様に高射砲の弾が次々に敵機に向かって発射。やがて、ドーンという轟音と共に、敵機は紅蓮の炎と化して墜落して行く。「当たる確率は情けない程低かったが、敵機を三方向から捉えた時は、結構良く命中した。」と当時14歳だった著者は鮮明に記憶しており、そんな過去の知識や記憶が3人の視点から一つの事件を捉えるという形へと結実した訳だ。
「武士の本懐を貫いた義父・光秀と、潔く爽やかに散った男が、命を賭して生涯守り抜いた物とは・・・。『本能寺』三部作完結!真実は敗者の側に在る。」というのがこの作品惹句だが、なかなか上手く内容を表していると思う。同じ著者が同じテーマの作品を著した場合、得てして内容が薄まって行くものだが、「信長の棺」に「秀吉の枷」、そしてこの「明智左馬助の恋」と内容が薄まって行くどころか、三位一体となって面白さを増している感が在る。
「信長の経国策を律する三つの要因『絹織物の最大消費地・京への強い進出願望』、『兵農分離』、『鉄砲の積極的採用』が、実は非常に密接にリンクし合った結果の物。」、「鉄砲の本格的導入の先鞭を付けたものの、肝心の火薬の原料となる硝石が日本では入手出来ないという泣き所を抱えた信長。そして南蛮からの硝石輸入戦が、何時どの港に入港す可きかを本国に指示していた伴天連達。自称”神の平和の使徒”の彼等が日本国内での布教を広める代償として、”情報”を売り”死の商人”の手先として働いていた。」、「子宮内の胎児を腐らせて流させる為の”子腐り薬(こぐさりぐすり)”の成分は水銀。」等、興味がそそられる記述も多い。
単なる謀反人と捉えられがちな明智光秀。しかし義子の目を通して描かれた彼は、義憤に駆られて挙兵した哀れな人物という趣を強く感じてしまう。歴史はそれを見る者の立場によって、様々な捉え方が出来るという一例だろう。
総合評価は星4つ。
「影武者が唯一騙せなかったのが主の奥方。」といううのは面白いですね。確かにどれだけ顔形を似せようとも、夜の営みではその人間の”個性”が出てしまい、騙そうにも騙せない。基礎的な本能の部分では、人間は斯くも”丸裸”という事でしょうか(笑)。
教科書に登場する歴史上の人物は、どうしても自分達とは別世界の存在という感じがしてしまうもの。しかし、当たり前の事ですが彼等も人の子で在り、身を切られれば赤い血潮が噴き出す生身の人間なんですよね。そういった生々しい部分を垣間見れるからこそ、歴史小説は面白いとも言えましょう。
大量の人間の中から少数を選抜しなければならない入試。だからこそ、どうしても個々人の思考を問う問題よりも、採点し易い○X問題が多くなってしまう訳ですが、一人の人間が社会という荒波を泳いで行く中で本当に重要な能力は記憶力よりも思考力の筈。入試のスタイルが本格的に変われば、学校の授業でも思考力を高める様なスタイルが普通になるのでしょうが・・・。