表通りの裏通り

~珈琲とロックと道楽の日々~
ブルース・スプリングスティーンとスティーブ・マックィーンと渥美清さんが人生の師匠です。

今こそ『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』

2024-10-29 16:33:33 | 絵画

遅ればせながら名作『ジョーカー』の続編を観てきました。

映画『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』予告 2024年10月11日(金)公開

んーーー判断の難しい作品ですね。アメリカでの賛否両論も興行不振も分かる気がします。

 

大傑作『ダークナイト』で故ヒース・レジャーが一世一代の迫真の演技で観る者を圧倒したジョーカー。

そのジョーカー誕生の物語を狂気の演技で演じきったホアキン・フェニックスの『ジョーカー』。

甲乙つけがたい両雄の作品は、僕の中のランキングでも未だ上位に留まっています。

今さら『ジョーカー』 - 表通りの裏通り (goo.ne.jp)

前情報を一切排除(予告編は何度も劇場で観てるけど)して観た『ジョーカー2』(このタイトルじゃダメ?以下これでいきます)は、てっきりアーサーが一層狂気の世界に入り込み、宿敵バッドマンと対峙するちょっと前あたりまでが描かれるのかと勝手に思い込んでいました。

しかも前作があれほどのインパクトを残しているし、歌謡界きっての演技派(だと思いませんか?)レディ・ガガとの共演。否応なしに期待しちゃいますよね。

期待値があまりにも高かったせいか、正直?マークがいっぱい並んでいます。一回しか観ていないので断言はできません。しかしどうしても前作と比べちゃうし、その前作で作り上げたホアキン版ジョーカー(=アーサー)のキャラクターが、極悪人から弱いオジサンになってしまいました。ここまで前作からキャラ変させるのって珍しいし、大きな賭けだったのでは?

このキャラ変は、厳しい病院への収容生活で強制的に変えられたものなのかどうかは分からないけど、本作では以前の凶暴さが影を潜め、妄想の中以外では暴力的な行動が出てきません。その妄想の中の破壊シーンはさすが!の一言ではありますが。

とても個人的な意見を一つ言わせてください。

ほぼ全編がミュージカル仕立てだったせいで、映画『ジョーカー』の持つ猥雑で陰湿で暗く救いのないゴッサムシティの街外れ感が薄まってしまったように感じました。もっとも物語の9割が病院内と裁判所ではありましたけど。

個人的には、ここまでアーサーの内面をえぐるようなストーリーにするのであれば、今や唯一無二の演技派ホアキンさんなんだから、あの変幻自在の表情とセリフ回しだけでじっくり見せて欲しかったです。幾度も挿入される妄想の中のリーとアーサーのステージのシーンだけがミュージカルっぽい作りだったらメリハリがあって飽きなかったかな。裁判所のシーンの緊迫感漲るやり取りがスゴく良かったので一層そう感じました。

『ジョーカー2』に関して賛否が渦巻いている理由は、多分僕も含めて”前作を超えるハチャメチャなアーサー(=ジョーカー)が観たかった”お客さんが多かったのではないでしょうか。劇中のガガさん演じるリーも、今の腑抜けとなってしまったアーサーではなく、悪の権化に覚醒しつつあった(これも彼女の願望・妄想でしょう)ジョーカーに恋をしていただけでは?裁判でアーサーが罪を認めた瞬間に恋から覚める表情(ガガさんの名演技!)を見せたとき、そう確信しました。そんな相手のウラをかくつもり(かどうかは分かりませんが)で、トッド・フィリップス監督はこのようなアプローチを仕掛けてきた気がします。

それでも裁判所の爆破はリーの仕業だと思っていたのに、アーサーがファンに連れられ逃亡(この時ラジオから流れるビリーの「マイ・ライフ」にグッときました)し、命からがらリーの住むアパートに向かう途中のあの階段(ブロンクスに実在するそう。今度ニューヨーク行ったら行かなきゃ)でのシーン。ここでもガガさんはとっても冷めた表情でアーサーを見つめながら別れを告げます。物語前半に見せていた”ジョーカー好き好きビーム”を発していたリーと、ジョーカーになり切れないアーサーに見切りをつけた後のガガさんの表情のギャップは背筋が凍る思いがしました。やっぱりガガさん上手です。

そして衝撃的だったラストシーン。

面会に来たのは誰だったのか?

それともおびき出すためのウソだったのか?

アーサーの笑みの理由は?

もしかしてこの『ジョーカー』シリーズは『ダークナイト』には続かない、アナザーストーリーだったのか?

もうこれでこのシリーズはおしまいなのか?

色んな意味でモヤモヤの残る映画です。一度観ただけだから良し悪しの判断はつきませんが、何故全米で賛否が渦巻いたのかを確かめるためにも是非劇場でごらんください。

前作から続く撮影監督のローレンス・シャーさんがフィリプス監督と作り上げた独特の世界観を表現したくすんだ色みの映像美は大スクリーンでこそ映えると思います。

 

追伸:

場面の約8割で誰かしら煙草を吸っているので、観終わった後自分が煙草臭くなったように錯覚をおこしました(笑)


Road Diary~Eストリート・バンドに愛をこめて

2024-10-29 13:27:26 | ブルース・スプリングスティーン

先週25日より待望の配信が始まったブルースの最新ドキュメンタリー作品『ロード・ダイアリー』。表題の通り、昨年からのツアーの裏側を記録した作品という触れ込みだったけど、ブルースとEストリーターの歴史に迫る濃密な50年の物語です。

Road Diary: Bruce Springsteen and The E Street Band | Official Trailer | Hulu

普通、25日より配信となれば日付が変わった頃には観れる(聴ける)はずなのに、結局観れたのは25日の15時頃。これは本国への配慮なんでしょうか。

昨年2月に始まったインターナショナル・ツアー(当初はそう呼ばれていました)は、のっけから色々ありましたね。まだコロナ禍の名残もあり、メンバーが次々に感染しながらも何とかやりくりしながら継続。最終的にはブルース本人の体調不良から昨年秋以降のショウが大幅にリスケジュールされました。

巷では多くの同世代(何なら下の世代も)のミュージシャンたちがフェアウル・ツアーと銘打ってお別れ公演も真っ盛り。残念ながらエアロスミスは三公演を行った後にスティーヴンの喉の状態が思わしくなく中止となってしまいました。来春にはシンディがお別れ公演で久しぶりに来日するし、今年のビリーや昨年のエリック爺さん、ドゥービーズも”最後”とは言っていないもののこの先分かりませんよね。

上の世代では、ポール爺さんは相変わらず精力的に南米を回っていらっしゃいましたし、ローリング・ストーンズもそろそろツアー再開かな。

そんな状況を鑑みると、とても不安でした。昨年ブルースが病気療養に入ったときには「もしかしたらもうおしまいかも」と一瞬覚悟しました。

でも今回、劇中でブルースは高らかにこう宣言してくれました。

動けなくなるまで続ける。バンドが付いてきてくれる限り続ける。そしてファンの待つ街に行く

だそうです。先月75を超えて後期高齢者の仲間入りは果たしたものの、まだまだお元気そうで安心しました。

 

しかし今回のツアー、今に至るまで(例外はいくつかあったけど)殆ど基本のセットリストは変えていません。前回2016年(特に後半のヨーロッパ)の『河』ツアーが変化自在の日替わりセトリだったのに比べると物足りなく感じたのも事実です。

それまでも近年のツアーでは、観客のリクエストに応えるカタチでサインボードを山のように抱えて、その場で演奏曲を決めて(多分リハもやっていないような久しぶりの曲とか)メンバーを困らせていました。この頃の話は劇中でメンバーが笑いながら回想していますが、本当に大変だったみたい。でもそれでもやっちゃうのが百戦錬磨のEストリート・バンドのスゴいところなんですよね。

それに対して現在のツアー。まだ音源が日本でもダウンロードできていた初期は毎公演落として聴いていました。しかしあまりにも代わり映えのしないセトリに、最初の数公演でダウンロードはやめました。バンドの結束(というか潤滑度合い)が回を重ねる毎に高まっていっているのは実感できたけど、これは「何か理由があるんじゃないの?」と、ずっと疑問に思っていました。

『ロード・ダイアリー』はその疑問にあっさり答えを出してくれました。

丁寧な構成で、感情や考えを伝えることに重きを置いて、語りたい物語を伝えるため。今までのツアーとは違うものである。

なるほど。そういうことか。

2023年2月。ツアー初日のタンパ公演(チケット持っていたのにどうしても行けず涙)。ウクライナの人たちへのエールとして、世界中で理不尽な抑圧を受けている人々を励ますために、これ以上のオープニング・ナンバーはないでしょう。

「ノー・サレンダー」。スティーヴのウクライナ・カラーのギターもそれを物語っていましたよね。

ブルースとEストリーターたちはそこから物語を紡いでいたのです。

数ある聴きどころ見せ場以外に、個人的に好きだった流れが「ラストマン・スタンディング」~「裏通り」への繋がりなんですが、ここにもとても大切なメッセージが込められていました。この意味を知ってしまった今は、涙失くしては聴けません。是非本編でご本人の言葉でご確認ください。

そしてそこからラストの「十番街」までのまるでジェットコースターのような(本人談)怒涛の展開はまさにEストリート・バンド。圧倒されます。

 

また、最新作の『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイブ』からはアレサで有名な「ドント・プレイ・ザット・ソング」とコモドアーズの「ナイトシフト」が選ばれ、大所帯のEストリート・クワイアが華を添えてくれています。どちらもライヴ映えする曲(もっと聴きたいのがあるけど)ですが、「ナイトシフト」は単なる過去のソウルマンたちへのオマージュじゃなかったという深い意味にビックリしました。

ホントに今回は全ての曲に意味のある、まさに集大成的なツアーとなっているんですね。だからこそ本編の最後に「十番街」を置いてしっかりEストリートの歴史を締めくくっているわけですね。ここには今までなら「デトロイト」や「ツイスト」のようなカバー曲が鎮座していたけど、今回に限っては「十番街」以外考えられません。そして最後の最後に「夢で逢いましょう」。カンペキです。

 

『ロード・ダイアリー』には他にも見どころがいっぱいです。ニュース記事では読んだけど、はパティがご自分の病気について自ら語っているところは衝撃的でした。『河』ツアーの後半からあまり参加せず、今回も数える程しか参加していません。しかも一、二曲ブルースと共演する程度。扱いもゲストですもんね。一日も早い回復と無事をお祈りします。

さらに毎回異様すぎる盛り上がりをみせるバルセロナへの想い、ジェイクが語るおじさんへの想い、クラレンスやダニーも何度も登場して、あたかも未だ現役(もちろんそうですが)の如くバンドへの想いを語ったり、バンド・メンバーだけでなくEストリート・ホーンズの面々やクアイアたちもいっぱい話してくれているのが嬉しいですね。

 

最後にジム・モリソンの詩を引用して本編は終わります。

 

偉大なる創造者よ

この芸術を行うためあと一時間与えてくれ

この人生を完成させるため

 

何か集大成というには重すぎる言葉。ホントに終わるんじゃないの?という雰囲気ですが、先に引用した通り、動けなくなるまで続けるそうです。ファンが待つ街に行くために。

だったら来年は是非日本にきてきださい!ヨーロッパに負けない熱いファンがあなたを待っています。日本で本物のロックを見せてください!

 

Eストリート・バンドに愛をこめて。