先週25日より待望の配信が始まったブルースの最新ドキュメンタリー作品『ロード・ダイアリー』。表題の通り、昨年からのツアーの裏側を記録した作品という触れ込みだったけど、ブルースとEストリーターの歴史に迫る濃密な50年の物語です。
Road Diary: Bruce Springsteen and The E Street Band | Official Trailer | Hulu
普通、25日より配信となれば日付が変わった頃には観れる(聴ける)はずなのに、結局観れたのは25日の15時頃。これは本国への配慮なんでしょうか。
昨年2月に始まったインターナショナル・ツアー(当初はそう呼ばれていました)は、のっけから色々ありましたね。まだコロナ禍の名残もあり、メンバーが次々に感染しながらも何とかやりくりしながら継続。最終的にはブルース本人の体調不良から昨年秋以降のショウが大幅にリスケジュールされました。
巷では多くの同世代(何なら下の世代も)のミュージシャンたちがフェアウル・ツアーと銘打ってお別れ公演も真っ盛り。残念ながらエアロスミスは三公演を行った後にスティーヴンの喉の状態が思わしくなく中止となってしまいました。来春にはシンディがお別れ公演で久しぶりに来日するし、今年のビリーや昨年のエリック爺さん、ドゥービーズも”最後”とは言っていないもののこの先分かりませんよね。
上の世代では、ポール爺さんは相変わらず精力的に南米を回っていらっしゃいましたし、ローリング・ストーンズもそろそろツアー再開かな。
そんな状況を鑑みると、とても不安でした。昨年ブルースが病気療養に入ったときには「もしかしたらもうおしまいかも」と一瞬覚悟しました。
でも今回、劇中でブルースは高らかにこう宣言してくれました。
動けなくなるまで続ける。バンドが付いてきてくれる限り続ける。そしてファンの待つ街に行く
だそうです。先月75を超えて後期高齢者の仲間入りは果たしたものの、まだまだお元気そうで安心しました。
しかし今回のツアー、今に至るまで(例外はいくつかあったけど)殆ど基本のセットリストは変えていません。前回2016年(特に後半のヨーロッパ)の『河』ツアーが変化自在の日替わりセトリだったのに比べると物足りなく感じたのも事実です。
それまでも近年のツアーでは、観客のリクエストに応えるカタチでサインボードを山のように抱えて、その場で演奏曲を決めて(多分リハもやっていないような久しぶりの曲とか)メンバーを困らせていました。この頃の話は劇中でメンバーが笑いながら回想していますが、本当に大変だったみたい。でもそれでもやっちゃうのが百戦錬磨のEストリート・バンドのスゴいところなんですよね。
それに対して現在のツアー。まだ音源が日本でもダウンロードできていた初期は毎公演落として聴いていました。しかしあまりにも代わり映えのしないセトリに、最初の数公演でダウンロードはやめました。バンドの結束(というか潤滑度合い)が回を重ねる毎に高まっていっているのは実感できたけど、これは「何か理由があるんじゃないの?」と、ずっと疑問に思っていました。
『ロード・ダイアリー』はその疑問にあっさり答えを出してくれました。
丁寧な構成で、感情や考えを伝えることに重きを置いて、語りたい物語を伝えるため。今までのツアーとは違うものである。
なるほど。そういうことか。
2023年2月。ツアー初日のタンパ公演(チケット持っていたのにどうしても行けず涙)。ウクライナの人たちへのエールとして、世界中で理不尽な抑圧を受けている人々を励ますために、これ以上のオープニング・ナンバーはないでしょう。
「ノー・サレンダー」。スティーヴのウクライナ・カラーのギターもそれを物語っていましたよね。
ブルースとEストリーターたちはそこから物語を紡いでいたのです。
数ある聴きどころ見せ場以外に、個人的に好きだった流れが「ラストマン・スタンディング」~「裏通り」への繋がりなんですが、ここにもとても大切なメッセージが込められていました。この意味を知ってしまった今は、涙失くしては聴けません。是非本編でご本人の言葉でご確認ください。
そしてそこからラストの「十番街」までのまるでジェットコースターのような(本人談)怒涛の展開はまさにEストリート・バンド。圧倒されます。
また、最新作の『オンリー・ザ・ストロング・サヴァイブ』からはアレサで有名な「ドント・プレイ・ザット・ソング」とコモドアーズの「ナイトシフト」が選ばれ、大所帯のEストリート・クワイアが華を添えてくれています。どちらもライヴ映えする曲(もっと聴きたいのがあるけど)ですが、「ナイトシフト」は単なる過去のソウルマンたちへのオマージュじゃなかったという深い意味にビックリしました。
ホントに今回は全ての曲に意味のある、まさに集大成的なツアーとなっているんですね。だからこそ本編の最後に「十番街」を置いてしっかりEストリートの歴史を締めくくっているわけですね。ここには今までなら「デトロイト」や「ツイスト」のようなカバー曲が鎮座していたけど、今回に限っては「十番街」以外考えられません。そして最後の最後に「夢で逢いましょう」。カンペキです。
『ロード・ダイアリー』には他にも見どころがいっぱいです。ニュース記事では読んだけど、はパティがご自分の病気について自ら語っているところは衝撃的でした。『河』ツアーの後半からあまり参加せず、今回も数える程しか参加していません。しかも一、二曲ブルースと共演する程度。扱いもゲストですもんね。一日も早い回復と無事をお祈りします。
さらに毎回異様すぎる盛り上がりをみせるバルセロナへの想い、ジェイクが語るおじさんへの想い、クラレンスやダニーも何度も登場して、あたかも未だ現役(もちろんそうですが)の如くバンドへの想いを語ったり、バンド・メンバーだけでなくEストリート・ホーンズの面々やクアイアたちもいっぱい話してくれているのが嬉しいですね。
最後にジム・モリソンの詩を引用して本編は終わります。
偉大なる創造者よ
この芸術を行うためあと一時間与えてくれ
この人生を完成させるため
何か集大成というには重すぎる言葉。ホントに終わるんじゃないの?という雰囲気ですが、先に引用した通り、動けなくなるまで続けるそうです。ファンが待つ街に行くために。
だったら来年は是非日本にきてきださい!ヨーロッパに負けない熱いファンがあなたを待っています。日本で本物のロックを見せてください!
Eストリート・バンドに愛をこめて。