ソプラノリサイタルがあり、街まで出かけた。
第35回とのことだが、毎回工夫したプログラムで聴き応えがある。
聞いたことのない分野の曲に果敢に挑み続ける彼女の姿勢にはいつも感心している。
それが毎回聴きに行きたいと思う理由だ。
真面目に新しいものに取り組み続ける、というのは中々できることではない。
そんな努力のできる人。
そんな生き方を、私は尊敬している。
前半はハープとの共演だった。
依頼作曲の新曲もあった。
「Dona nobis pacem」(われらに平和を与えたまえ)とミサ典礼文を繰り返し、その間に万葉集の防人歌(さきもりうた)3首が入る。
心に沁みるメッセージだった。
後半は言葉のないヴォカリーズと、プレヴィンやブリテンの珍しい「キャバレーソング」という分野の曲。
キャバレーというのは、音楽を演奏する酒場というほどの意味と説明されたので、今でいうとライブハウスでの演奏という感じなのかと理解した。
話し言葉のような歌詞だが、彼女の揺るがない実力で紡がれた音楽には、豊穣な文化の香りを感じた。
歌っていいな。
音楽って楽しい。
というのを思い出させてくれた。
客席で何人かの知人と言葉を交わした。
久しぶりの再会だった。
「しましまさん、最近歌ってるの?」
「また歌ってほしい」
「あなたは歌う人よ」
と、何人もの人が言ってくださった。
コロナ禍ですっかり萎んでしまった、私の歌う気持ち。
もうそろそろ歌い始めようか。
やっとそんな気持ちが満ちてきた気がする。
今日のリサイタルは、私をそんな気持ちにさせてくれた。
帰り道、人がたくさん出ていてびっくりした。
仮装している人もいるから、ハロウィンに繰り出しているのだろうか。
街路樹はイルミネーションが始まって、以前と変わらず美しく輝いていた。
郊外ばかりにいるとわからないけれど、日常は動き出しているのだとわかった。
恐る恐るだけど、私も一歩ずつ気持ちを進めていこう。