弁護士任官どどいつ集

弁護士から裁判官になった竹内浩史のどどいつ集

「法を超えて」の賠償するに「除斥期間」が邪魔をする

2023年09月21日 17時51分13秒 | 裁判
債権法改正前の民法の不法行為に基づく損害賠償請求権の20年間の期間を、条文の文言に素直で通説的な解釈でもあった「時効」ではなく「除斥期間」としたのは、平成元年12月21日の最高裁判例。
これにより裁判所は不法行為後20年で問答無用で請求をシャットアウトすべきものとされた。つまり、被告は時効援用の抗弁すら主張する必要はない上、その援用を権利濫用や信義則違反とする原告の再抗弁も主張自体失当とされた。

https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/709/052709_hanrei.pdf

この判例が、戦後補償裁判に直面した下級審を、さらには旧優生保護法裁判で最高裁自身を苦しめている。

また、ジャニーズ事務所が「法を超えた」賠償を約束したが、それでも話が付かず、裁判所に事案が来てしまったら、被害後20年の「除斥期間」を自動的に適用すべきということになりかねない。

ちなみに、改正後の現行民法では、下記参照条文のように、20年の期間は、やはり「時効」であると明記された。
無理して「除斥期間」をクリアする特別な理屈を立てようとせず、素直に判例変更をして「時効」に戻し、その援用の権利濫用や信義則違反の問題として判断するのが、最も簡明かも知れない。
(参照条文)
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第七百二十四条の二 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。