
新横浜プリンスホテルに、成田から到着した外人のエキスパートを迎えに行きました。
探している者もどうやら私一人、人待ち顔の男も独り。
彼は、貴方の探している人は、私ですよと笑顔でサインを送りました。
私は、その人に声をかけにくかったのです。
半そでシャツの二の腕から、くりからもんもんが見えたのです。
こいつじゃないよな。笑った舌にはピアスが通してありました。
N(親しみを込めてこう呼びます)は,酒を飲みませんでした。
腕の良い日本人の同僚とそりが合いませんでした。
私も、ビールの担当になったばかりで様子が解りませんでした。
ミッションは、ビール用麦芽の粉砕機をスタートアップすることでした。
日本人の同僚は、1年後に、16年間勤めた会社を去りました。
Nは最愛の奥さんと別れたばかりでした。三者三様の事情を抱えていたのでした。
後から分かったことでした。
だらだら進むスタートアップの合間に、他のビール工場の機械を点検に行きました。
実に手際よく、点検していきました。
ありゃりゃ、殻と粉に分ける粉砕麦芽のシーブボックスにクラックが見つかりました。
近い将来、運転不能になる重故障でした。
さっそく、会議が持たれました。昼食返上で工場長も出てこられました。
「お前たちは、この事実を知っていて来たんだろう。こりゃ、リコールだ。」と
風向きはアゲインストでした。
「試しに聞くが、これまでこんなことは同じ機種であったのか。」の質問に、
しばし黙考し、
「20年間、この会社に入って世界中で機械を立ち上げて来たが、このようなことは2例目です。」と
彼は答えました。おきの毒ですというジェスチャーも交えていました。
出来た外人は、「今まであったことがない。」と決して言わないのです。
あろうが、なかろうが2回目だと答えます。
相手をリスペクトしている結果そうなるのです。
結局、この会社のエンジニアリング部長と交渉すること1年。
わが社に非が無いことを解っていただきました。
その日、二人で酒場に出かけていきました。
Nは躊躇なく、美味しそうにビールを飲み始めました。
背中の彼女も見せてくれました。別れた事情も。
荒れたそうです。年間、10ケ月の海外出張です。孤閨を守るのも大変です。
くすんだ色合いのそれは、正直今一つでした。
店の親父が、「なんじゃそれは、大したことはないのう。」と
「日本のが、よっぽど良かばい。」
こちらも、板子一枚、落ちれば地獄の海を生きて来た、今は気の優しい譲二さん。
その年、二度目の来日の時、Nは残っていた二の腕に日本のカラフルなもんもんを入れました。
「今日も、しょんべんをかけておいた。」と私に報告しました。
日本人の同僚と古い機械の点検に行ってきたのでした。
私の営業成績が上がるよう、彼は努力してくれるのでした。
続きは、今度にします。
今日も頑張って、働いてきます。
2015年1月14日