雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

喫茶ルノワール人質事件

2011年06月20日 | エッセイ


 喫茶ルノワール人質事件
 先日、久しぶりに東京を訪ね、若い頃、その中の目白店を利用していた系列の喫茶ルノワールを見つけ、まだ続いていたのかと驚くと同時に、傘袋を見ると、いつも思い出す、喫茶ルノワール目白店でのエピソードを書いた。その喫茶ルノワール目白店には、もう一つ、エピソードがある。
 先日も書いたように、当時の私は、美大の浪人で、同じ高校から同じ美大予備校に通う、仲良し3人組で行動を共にしていた。喫茶ルノワールの客筋とはあきらかに違う我々は、たっぷりと暇な時間があるときで、もっともお客さんが少ない時間帯に利用することがあった。例によって、一杯のコーヒーで時を過ごし、「もう出てね」の合図であろうサービスの昆布茶を飲み終え、席を立つときになって、3人とも財布を予備校に置いている鞄の中に忘れて来たことに気がついた。
 そこで、仲良し我々3人組は、例によってジャンケンをし、負けた人が人質となって、予備校まで財布を取りに行く、往復20分ほどを待つことになった。負けて人質となったのは、傘袋事件の主役のT君だった。今度は事件等起きるはずのない、簡単な話だった。予備校まで行き、次に負けた一人が、3人分のコーヒー代を持って、喫茶ルノワール目白店に戻る。合図の昆布茶が出た後なので、かなり居心地は悪いだろうが、20分の我慢で済むはずだった。
 ところが、僕ともう一人のK君は、予備校に戻って、別のトラブルに巻き込まれ、その対応に追われるうちに、人質T君のことをすっかり忘れてしまうのである。
 今回は、さすがのT君も烈火の如く怒り、僕とK君を批難した。
 T君は、約束の時間を過ぎても戻らぬ僕たちをそれでも限界まで待ち、その後意を決して、一生懸命に店員に説明をし、後日支払いに来るからと、身分証となる予備校の生徒手帳を預けて放免されたそうである。
 僕たち二人も反省し、友情もそこで終わりかとも思ったが、翌日になるとT君は、変わらぬ友情を示してくれた。ただ内心は未だに分からない。(2011.6.20)
 
 


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