雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

サンタクロースになれなかったお話

2013年12月31日 | エッセイ


サンタになれなかったお話


 私は小学校の5年生の2学期から、生まれ育った大矢野島を離れ熊本市内に住むことになった。兄弟5人いて、熊本市内の高校に皆、進学予定だったから、長兄が高校に入る機会に熊本市内に父が家を建てたのだ。当初は、兄と姉、私の上3人と祖母、従姉の5人で暮らし、数年後に妹二人も市内の家にやってきた。両親は父の仕事場のある実家で暮らし、週末や何かあると市内に出て来た。
 熊本市内の小学校に転校すると、野山を駆け巡っていた生活から、学校から帰ると本やマンガを読んで過ごすことが増え、家にこもりがちになった。駆けっこや体操などのスポーツも得意で均整のとれていた身体は、元来母親譲りの太りやすい体質と運動不足で、みるみる太って肥満児となってしまった。
 外遊びなどの生活習慣の変化もあったが、原因の一つは学校の給食だった。天草にいる頃の給食は、私にははっきり言って苦痛だった。牛乳の代用品の脱脂粉乳は、後にココア入りが提供されてどうにか飲めるようになったが、魚のメニューが多く、当時魚嫌いだった私は毎日涙目になって給食を食べていた。大人になって少しずつ魚が食べられるようになったが、当時の給食の魚を出されたら、今でもたぶん拒否してしまうのではないだろうか。
 ところが同じ時代の給食なのに、熊本市内の小学校に転校すると、脱脂粉乳は瓶入りの本物の牛乳だったし、固いコッペパンはやわらかい食パン。メニューも天草ではあり得ないオムレツやスパゲティーミートソースなどもあり、毎日美味しくて夢のような給食だった。
 そんな風に転校して肥満体格なった私は、そのことにコンプレックスを抱きながらもそれ以来つい10年程前にダイエットするまで、ほとんどの時代の写真やビデオを見ても、我ながらパンパンに太った体型を維持し続けてきたのだ。
 中学校の時に、理由はもう思い出せないが、部活で「英会話クラブ」に入っていた。年に一度の発表会には、英語劇をすることになっていて、私がいた年は、シェークスピアの「リア王」という劇をした。私はリア王の娘の夫役を演じることになった。そう言えば、その時にリア王を演じた同級生の吉岡裕一君は、その後俳優を目指して、あのNHKの名作ドラマ「おしん」などにも出演して、おしんの兄役を演じた。私はおしんの兄役の俳優さんと舞台で共演したのだ。劇の内容や様々なことはほとんど覚えていないが、発表会がらみで印象に残った出来事があった。それは出演者の衣装合わせのときに、誰かのベルトの色が問題となり、私の持っていたベルトを貸すことになったことだ。私の自宅が通っていた中学校から徒歩1分の距離にあり、授業などでも理科の実験か何かで家にあるものが必要になると、先生から頼まれて家に走ったことも何度もある。その時も何も考えずに自宅に走り、私は自分の持っている良さそうな色のベルトを彼に差し出した。が、彼と私のウエストはあまりにも違い過ぎた。彼が一番小さい輪になるはずの穴に通しても長過ぎて余ったベルトは、その場の人の大爆笑を買い、私の好意は大恥を招いたのだ。
 高校生の頃、当然私は太ったままで、家でクリスマスイブを迎えていた。
 その頃いいなあと思っていたガールフレンドから電話がかかってきた。同じ高校の一学年後輩の彼女は、私が所属していた美術部で絵を描く際にモデルをつとめてくれて、親しくなった。人生で初めて自分の家に招いた女の子だった。
 ドキドキしながら出た電話の用件は、クリスチャンの彼女が所属する教会のこども学校で、私にサンタクロースをやってもらえないかということだった。サンタ役の人の都合が悪くなり、ピンチヒッターを私に依頼してくれたのだ。もちろん彼女が困った時に自分を思い出してくれたことに対して、私の気分は高揚した。でも次の瞬間、あの中学のときの大恥をかいた出来事を思い出したのだ。そのサンタの服が私には小さ過ぎて入らなかったら‥‥。
 そして私は彼女の依頼を断ってしまった。もしその時に、恥を考えず勇気を出してサンタクロースになっていたら、彼女との関係はどうなっていただろう。人生にはそんな「もし」がいくつかありますね。
(2013.12.30)佳い新年をお迎えください。
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山(T.Yさんに寄す)

2013年12月29日 | ポエム


 山 ( T.Yさんに寄す )


遠く山並は
深く大地に根をはって
やさしく横たわっている
動こうとしないでいる

雲は灰色の空にひろがり
青い山並を静かに撫でて行く
山の向こうで明るく光る空は
山の端を影絵 (シルエット) にして
ギザギザの音を奏でている

(あるときは するどく
 あるときは まあるく)

響きは おれの心臓をにぎりしめて
離さない
そうして
おれの心は
山に抱きつき
小さな下生えの草木をつかみ
その山を這いずり回る

(なんという きびしさだろう
 なんという ひろさだろう)

おれは喜びの汗をかき
美しい苦しみの涙を流し
唇を噛み
あまずい想いが
おれの体いっぱいにひろがる
(1997.3.22~2011.12.25)
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水仙1・水仙2

2013年12月27日 | ポエム

 水仙

   1
ある時ふっと
お前が好きになった
あとで気がついたけれど
それはお前が
あのひとに似ているからだと

ちっとも気取らない美しさと
可愛らしさと
それでいて
ちょっぴり意地悪く
さりげない表情をするところ

あのひとを
好きになってはいけませんか
お前を好きになったように
(1975冬~2011.12.9)






   2
お前は僕の部屋に咲き
僕はお前をみつめ
お前にたずねる
しあわせか、と
お前は空を愛している
空がお前に何を与えるというのだ
(1975冬~2011.12.9)
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天国への階段

2013年12月23日 | ポエム



 天国への階段


美術教室の道具棚の上に腰かけて
無口な君に代わって
流れるように語り続けるギター

長く黒い髪を揺らして
うつむき加減にギターを弾く君は
確かにとても輝いていた

児童公園にある小さな人工の山さえ
見ると登らずにはおれないきみは
高いところが大好きだった

君が初めて乗った飛行機の中で
眼下に見える山々の名を
ひとつ一つ僕に教えてくれた

まだ少年の心と面影を残した頃に分かれて
突然再会したときには
お互い家族がいたね

君は髪を短く切り、饒舌になっていた
でも話すのは子どものことばかりで
君自身のことには口を閉ざしたね

走り回る子ども達に囲まれ
君が手にした僕のギターで
僕が演奏をねだった曲

弾き方を教えてくれると言ったのに
約束を果たす前に
君は一人、天国への階段を昇った

工事現場の砂利の山さえ
見ると登らずにはおれない君は
とうとう君の大好きだった山々さえも越す
空の高みに昇ったんだね
(2012.1.26)

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冬-2

2013年12月21日 | ポエム


 冬-2


ラジオのヴァイオリンが
おびえたようにふるえている
今朝の風は 冬を告げる

水はキラキラと
ナイフのような歯をみせて
笑っている
(いじめっ子のような顔をして)

みんなが私にやさしい
みんなが私を信じている

私は愛につつまれて
本当のことを知らないでいた

冬の水はこんなに冷たいのだ、と

(1976.11.29~2011.12.15~2013.12.19)
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