雲のたまてばこ~ゆうすげびとに捧げる詩とひとりごと

窓の雨つぶのような、高原のヒグラシの声のような、青春の日々の大切な箱の中の詩を、ゆうすげびとに捧げます

遠くで汽笛を聞きながら

2013年03月23日 | ポエム

 遠くで遠くで汽笛を聞きながら

 春分の日の雨があがった夕方ちょっとだけ趣味の庭仕事をした。
 5時過ぎ。庭にいた私の耳に蒸気機関車、SLの汽笛がかすかに聞こえて来る。アリスの「遠くで汽笛を聞きながら」という歌が浮かんできて口ずさむ。
 その朝は、前夜飲み会があったために実家でもある上天草市の仕事先に泊り、休日の雨音にがっかりしながら目を覚ました。豆腐のみそ汁と納豆、目玉焼き(片目)とトマトサラダの朝ご飯を食べ、洗濯をして熊本市内の自宅に向かう。
 途中、国道57号線沿いにある宇土市の宇土マリーナという道の駅に、蛤があればと寄ってみた。目当ての蛤はあったが、袋入りはすべて1000円近くして断念。夫婦二人にお吸い物の具に2個ずつあれば十分なのだが、4~5個入で価格設定を安くしたパックを作ったらもっと売れないだろうかと思う。代わりに350円のアサリ飯弁当を買う。アサリの出汁で炊いたご飯に甘辛く煮たアサリのむき身がいっぱいのっている。付け合わせにイモの天ぷらやレンコン、人参、大根、厚揚げの煮物と大きく黄色い沢庵が二つ付いていて(写真を撮って食べるべきだった)、小振りだが内容充実。ただし人気があるらしく、早めに買いに行かないと売り切れている。お昼に家人と長男と3人で食べた。 
 夕方聞こえた汽笛は、3年前に亡くなった父と同じ、大正11年生まれの58654機、通称ハチロク。JR九州の人気の観光列車「SL人吉号」だ。冬場の点検整備を終え、今年も先週土曜から元気に走り出していた。週4日の運転日には、朝と夕方、自宅にいてSLの汽笛を聞くことができる幸せを感じる。
 私の中学高校時代は、昭和40年代で急速に無煙化(SLを廃しディーゼル化や電化すること)が進みつつあった時代だが、熊本ではまだまだSLが活躍していた。真夜中にふと目が覚めたときに、耳を澄ますと数キロ離れた豊肥本線の南熊本駅にあった広い操車場で貨物列車の入れ替え作業をする蒸気機関車(多分C11)の音が不思議な程はっきりと聞こえてくることがあった。
 「ガチャン」という連結のときの音。
 「シュッ、シュッ、シュッ、シュッ」というドラフトの音。
 ブレーキがかけられ、レールと車輪がきしむ「キーッ」という音。
 そして「ポッ」と短く控えめな汽笛。
 当時、鹿児島本線を上り東京へ向かう寝台特急の「みずほ」や「はやぶさ」は、さすがに電気機関車の牽引となっていたが、まだ列車のことを「汽車」と言っていて(私は未だに鉄道のことを汽車と言ってしまい家人や子ども達にバカにされる)、東京に行くと言えば、汽車で行くことを意味していた。汽笛=列車=上京、みたいな公式があって、SLの汽笛には、今聞いても特別な感傷が沸いてきてしまうのである。アリスの名曲、「遠くで汽笛を聞きながら」もおそらくそんな似たような時代背景があるに違いない。
 汽笛と言えば、私の実家であり仕事先の上天草市は、海に囲まれた島である。橋で九州本土と結ばれてやがて半世紀。島であることを日頃忘れてしまいがちだ。だが朝方に近くの港を出港する船の汽笛が聞こえて来たりして、島にいることを再認識したりする。
 都はるみが歌ってヒットした「涙の連絡船」には、「今夜も汽笛が、汽笛が,汽笛が」とくり返すフレーズがある。作詞をされた関沢新一さんは鉄道好きで鉄道関係の著作も多く、その中で涙の連絡船の歌詞の中の汽笛は、もとはSLの汽笛だったという話しをされていた。だったらアリスの曲の汽笛も港町の話で、船の汽笛かもしれないなあ。いずれにしても汽車も汽船もその汽笛には心に響くものがありますね。
 昭和49年の春、私はそんな遠くで鳴る汽笛が聞こえる町を出て、上京した。
 この春も、同じように進学や就職などで、熊本から上京する子ども達も多いことだろう。汽笛も鳴らさずにあっという間に飛び去って行く飛行機で。
 家を出て数時間後には東京にいる現在と、一晩列車に揺られて上京した私達とは、故郷を離れる覚悟も寂しさもまた違うのかも知れない。
(2013.3.22)


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1 コメント

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めぐみです! (めぐみ)
2013-03-23 20:27:19
はじめまして、初コメントです!
はじめまして!めぐみっていいます、他人のブログにいきなりコメントするの始めてで緊張していまっす\(o⌒∇⌒o)/。ちょくちょく見にきてるのでまたコメントしにきますね(*^^*)ポッ
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